弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年5月 1日

がん哲学外来入門

人間

著者 樋野 興夫、 出版 毎日新聞社
 今日、日本国民の2人に1人はがんにかかり、3人に1人はがんで死んでいる。2006年の死者は33万人。これは秋田県や大津市の人口に匹敵する。うひゃー、すごいです。
 ただし、がんになった人の約半数が治る時代になった。ああ、よかったです。
 がん細胞は、正常な細胞ががん細胞に変化(がん化)したもの。ウィルスはがんのトリガー(引き金)の役回りではある。がんは感染しない。ふむふむ、なるほどです。
 正常細胞を試験管の中で培養しようとしても、長く生きることはできない。細胞分裂を50回ほど繰り返したら、その先は増えない。ところが、がん細胞は、人間の体内と同じ37度の環境をつくり、それなりの栄養補給をすれば、永遠に生き続ける。現に、1951年に亡くなった人のがん細胞が、今なお培養液の中で生きている。な、なんと、すごい、すごい。
 がん細胞は飢餓状態に弱い。がん細胞は熱に弱い。1センチのがん組織の中に、がん細胞は10の9乗個、10億個もある。がんの初期の成長スピードは、おそろしく緩慢で、死につながる一人前のがんになるまで10~20年かかる。む、む、む。ヒトはがんと共存しているんですね。そうと分かれば、共存共栄とはいかないものでしょうかね・・・。
 日本では、がん治療の70%以上が外科手術。もう一つの治療の柱である放射線治療は25%程度で、欧米に比べてかなり低い。そうなんですか……。
 遺伝性がんは5%、食生活など環境因子によるがんが70%。原因を特定できないがんが25%となっている。だから、遺伝との因果関係に悩む必要はない。なるほど、ですね。
 日本人のがん患者の3割が、生きる希望を失って、うつ的症状を呈す。うつ病ではない。そこで、著者は、内村鑑三の次の言葉をがん患者に贈ります。
 勇ましい、高尚な生涯。つまり、善のために戦う、真面目な生涯そのものが、もっとも尊く価値のあるもの。あなたには、死ぬという大切な仕事が残っている。どんな人にも、死は最後の大舞台なのである。がんは最期まで頭が働き続ける病なのだから、自らの手で「大切な仕事」を成就して終えてもらわなければならないのだ。
 いやあ、そう言われると、そういうものなんでしょうが……。まだ、もう一つ、そこまでの悟りはとても開けませんね。
 できれば、天寿と思われる年齢に達したころ、がんで死ぬ。これが理想だ。なるほど、この点はよく分かりました。がん哲学外来という、耳慣れないものをはじめた著者の話は、傾聴に値するものと思います。

(2009年1月刊。1700円+税)

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