弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年4月26日

小林多喜二と宮本百合子

社会

著者 三浦 光則、 出版 光陽出版社
 著者は、あるとき、手塚英孝に次のように問いかけた。
「プロレタリア文学は、理論では優れていたが、実作の面では大したものがないという批判がありますが…」
 すると、手塚は日頃の温和な表情を変え、「そんなことはありません」と一言怒ったように言い、黙ってしまった。
 戦前、プロレタリア文学は盛んだったと言えるだろうと思います。その証拠の一つが「戦旗」の発行部数です。「戦旗」は、1928年5月創刊号の発行部数7000から出発し、1930年4月号は2万2000部に達した。同年10月号は、2万3000部となった(最高は2万6000部)。
 天皇制権力は、これに対して発禁処分という弾圧を加えた。創刊以来の44冊のうち、13冊だけが発禁処分を免れた。なんという、ひどい弾圧でしょうか…。
 宮本百合子は、治安維持法による弾圧を受け、1932年から1945年10月までの13年間に、わずか3年9ヶ月間しか作品発表の機会をもちえなかった。
 治安維持法とは何だったかというと、その下での天皇制政府、警察の弾圧の残虐さはどのようなものであったかということ、それを具体的に明らかにしたのがプロレタリア文学であった。ある意味で、プロレタリア文学の成果の総体が、「治安維持法という題の小説」であるといっていい。
 著者は、私と同世代であり、同じ時期に学生セツルメント活動を共にした親しい仲間です。当時は、お互いにセツラー名で呼び合っていました。ベースであり、イガグリでした。そんな彼が、高校教員としての仕事のかたわら、小林多喜二と宮本百合子について、ずっと研究し、論文を発表してきたことは知っていましたが、この度、それが一冊の本にまとまったわけです。やはり、本にまとまると、全体像が見えてきます。地平線の先に何があるのか分かることも必要なことです。
 著者が今後ますます健筆をふるわれんことを心より期待しています。
(2009年3月刊。1429円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー