弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年4月 7日

アメリカで死刑を見た

アメリカ

著者 布施 勇如、 出版 現代人文社

 アメリカで死刑囚が処刑される場面に立ち会った日本人の新聞記者がいたなんて、驚きです。アメリカでは、死刑囚の家族だけでなく、被害者の遺族の立ち会いも認められています。窓を通して、死刑囚が死んでいく様子の一部始終を見守るのです。
 著者は、テネシー州のナッシュビルに行き、死刑囚の収容されている最高度警備刑務所を見学します。私もナッシュビルには行ったことがあります。エルヴィス・プレスリーの家も見学しました。
 この刑務所には、90人の男性死刑囚がいる。執行の72時間前になると、正常の監房から執行室に近い房に移される。ここでは執行開始は午前1時と決まっていて、最後の食事は20ドル(2000円)以内なら、何でも好きな物を選ぶことができる。
 電気椅子による処刑だと死ぬまで45分かかるが、薬物注射だと2分半。担当する職員は3人か4人で、誰が注入した薬物で死んだのか、誰にも分からない仕組みになっている。日本の絞首刑のときも同じような仕組みになっているそうです。
 アメリカでは1968年から1977年まで死刑執行はゼロとなっていたが、1977年に再開されてから、2007年末までに1099人が処刑された。
 そして、死刑判決が確定しながら、あとで無実とされて釈放された「死刑囚」が1973年以降で129人にのぼる(2008年5月現在)。むむむ、こ、これは、多すぎ、多すぎます。
 受刑者への暴力は、アメリカの刑務所では珍しいことではない。刑務所では、殺人事件も起きている。
 死刑囚の3分の2以上は黒人。160人の死刑囚のうち、35人の黒人死刑囚は、陪審員全員が白人から成る法廷で有罪・死刑の判決を受けた。アメリカでの殺人の50%は黒人が被害者である。アメリカで執行される死刑のうち80%以上は、被害者が白人である。死刑囚のうち33人は、あとで資格を剥奪されたか停職処分を受けた弁護士が弁護人となっていた。
 死刑の制度があることによって犯罪が減ったことを実証した調査・研究はほとんどなく、死刑による犯罪抑止効果は期待できない。殺人の防止について言うと、死刑を廃止した州の方がうまくいっている。死刑を執行している州と、死刑を廃止した州との殺人発生率の格差は、この10年間に広がっている。死刑執行数が上位の州は、執行しない州に比べて殺人発生率が2倍も多い。死刑は犯罪抑止とは関係ない。それは、政治的なものにすぎない。
 テキサス州では、死刑執行まで刑務所で過ごす期間は平均して10年あまり。死刑1件あたりの費用は230万ドル(2億3000万円)で、最高度警備の独房で40年間も服役した場合よりコストは3倍になる。
 アメリカでも死刑制度を存置するのは、50州のうち37州である。
 今の日本では、なんでも死刑にしろと声高に叫びたてる風潮がますます強くなり、気の弱い私なんか恐ろしい気がします。
 先週の金曜日に日比谷公園に行くと、快晴の下で桜が満開でした。我が家のほうは、先週の日曜日に見事に満開となりました。そのあと寒い日が続いたせいで、満開状態が1週間ほど続きましたが、土曜日に雨が降り、日曜日にはかなり花が散っていました。
 北海道の弁護士に訊くと、桜は連休明けだよと言われてしまいました。
(2008年7月刊。1500円+税)

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