弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2009年4月 6日
レッドムーン・ショック
アメリカ
著者 マシュー・ブレジンスキー、 出版 NHK出版
1957年10月4日、ソ連が世界初の人工衛星「スプートニク1号」を打ち上げたと聞いたとき、アメリカ軍のメダリス少将は言った。
「ロシア人にそんなことができるわけがない。衛星をつくって打ち上げるのが、どれほど難しいか、十分わかってるはずだ」
メダリスはソ連の技術力を見くびっていた。共産主義は良質な日用品をつくるのには向かないが、科学における画期的な偉業を成し遂げるには理想的な環境だということを多くのアメリカ人は分かっていなかった。
スプートニクの重さが83キロもあると聞いて、アメリカ軍の関係者は信じられない、間違いじゃないのかと思った。このとき、アメリカ軍で打ち上げが可能なのは、せいぜい1.6キロ程度でしかなかった。
ホワイトハウスの公式見解は、スプートニクは騒ぎ立てるほどのものではない。しいて言えば、ナチスの技術の功績であり、ソ連の専門知識によるものではない、というものだった。
しかし、アメリカ政府が共産主義国家の飛躍的進歩をどれほど軽んじようとしても、メディアの判断は違った。スプートニクは、大ニュース、それもショッキングで恐ろしい超ビッグニュースだった。
アメリカ人は恐怖におののいた。スプートニクを宇宙へと打ち上げたミサイルは、アメリカは絶対に安全だという人々意識を粉々に砕いた。スプートニクに対するアメリカ国民の反応は、無関心から恐れに変わった。国中の人が屋根の上にのぼって夜通し空を見上げ、忌まわしい球体を一目見ようと待ち構えた。夜中の3時に隣近所が勢ぞろいし、心配そうに夜空を見上げていることが珍しくなかった。
アメリカの記者はアイゼンハワー大統領に質問した。
「ソ連は人工衛星を打ち上げました。彼らは大陸間弾道ミサイルの打ち上げにも成功したと言っています。どちらも我が国は所有していません。どうなさるおつもりですか?」
これに対するアイゼンハワーの言葉はあまりによそよそしく、国中を覆っている不安とはかけ離れていた。
ソ連のフルシチョフも、はじめ、スプートニクが政治の世界にこれほど大きな影響を及ぼすとは思っていなかった。
10月5日の晩になって、ようやくアメリカに対して大勝利をおさめたことを理解しはじめた。一夜にして、世界にとってソ連が真の超大国となった。金属のボール一個で、ソ連は何十年と言葉を連ねても得られなかった名声を得た。
スプートニクは、アメリカの同盟国に有形無形の衝撃を与えた。大陸間ロケット(ICBM)は、最終兵器と呼ぶには重大な欠陥があった。それをごまかすためのはったりがつかわれた。
ソ連のミサイル(ICBM)は先制攻撃に弱く、発射台上にあるとき、アメリカの爆撃機に攻撃されたら、ひとたまりもない。しかし、示威効果は抜群だった。
1957年11月4日、スプートニクは犬を乗せて宇宙へ飛んだ。生きた犬を乗せていたのだ。実のところ、テリアの雑種犬ライカは、打ち上げ直後に焼き殺されるようにして死んでいた。しかし、ソ連の公式発表では、犬は生きて地球を回っているということになっていた。
アメリカが人工衛星エクスプローラーを打ち上げたのは、1958年1月31日夜のことだった。そして、ソ連は、1961年4月12日、宇宙飛行士ガガーリンが軌道を周回した。ガガーリンの宇宙飛行の成功は、発展途上国に大きな反響を与えた。
ところが、宇宙で大きな勝利をおさめたソ連は、軍事面で高い代償を支払うことになった。つまり、ICBMは失敗作だったのだ。というのも、アメリカが実用的なICBMを160機ももっているのに、ソ連はわずか4機しかもっていなかった。スプートニクの成功のかげでICBMの開発が遅れていたのだった。
当時、小学生だった私もスプートニクとかライカ犬とか、ガガーリン少佐の宇宙旅行というのを聞いて胸躍らせた覚えがあります。ソ連って、すごい国なんだと思ったわけです。
ところが、この本を読むと、アメリカもてんやわんやだったようですが、ソ連のほうは、もっとひどかったようです。それでも、いわゆる一点突破、一点豪華主義でスプートニクの打ち上げ、そしてガガーリン少佐の宇宙飛行には成功したということになります。
宇宙競争の内実を知り、これって想像以上に政治と生々しく密接な関わりをもっている問題なんだ、と改めて認識させられました。430頁もの大部な本ですが、面白く読み通すことができます。
(2009年1月刊。2500円+税)
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