弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2009年3月23日
中世世界とは何か
世界史(ヨーロッパ)
著者 佐藤 彰一、 出版 岩波書店
ヨーロッパ中世のころ、土地は皇帝から下賜された。法的に完全な所有権の名義で領有できたが、領主が皇帝の不興を買うような不始末をしたときには、その土地が皇帝のもとに回収された。その意味で、皇帝への忠誠とねんごろな奉仕を条件として与えられた目的贈与であった。授与者への忠誠を条件とする譲渡という法的性質が、主君への忠誠を条件とする封建制度の封にも継承されたのである。
封建制は、このように、もともと別個に発展してきた2つの制度である主従制と恩貸地制とが結合したことにより生まれた。
カール・マルテルは、732年のトゥール・ポワティエの戦いで、イスラーム騎馬兵の脅威に震撼し、本格的な徴兵制への転換を図った。
ヨーロッパでそれまで飼育されてきたのは、イスラーム騎馬兵が乗りこなしている馬と比べて、馬体も小さく、重量も軽い、見劣りする馬種だった。そこで、カール・マルテルはアラブ馬を入手し、それを基礎とした高速移動の騎馬隊の整備に乗り出した。
鐙(あぶみ)の使用による大きな槍のしっかりした固定化、これが騎兵の威力を格段に高めた。重装騎兵の誕生である。
軍隊の高速かつ機動的な展開に必要な騎馬兵を大量につくり出す目的で、カール・マルテルとその息子たちは、教会や修道院の土地を没収して家臣たちに配分した。騎馬兵制は、歩兵制に比べて、装備と訓練に多額の費用がかかるために、兵に十分な経済的基盤を与える必要があった。
生まれ育った家や故郷を離れ、地位を求めて遍歴する二男、三男層の騎士の中には、僥倖を得て、上層の貴族の末娘を妻に迎える者もあった。新たな門地を立てるのに成功した騎士の血統の高貴さは、往々にして母方の血統からもたらされた。男系血族優位の趨勢の中でも、一門の栄光の源泉として女系の寄与もまた看過しえないものがあった。
このようにしてヨーロッパの歴史において、初めて身分としての貴族が誕生した。
事実上の貴族から法的身分としての貴族に脱皮するには、騎士理念の普及・長子の単独相続制という、それまでのヨーロッパにおいて原理として確立していなかった新しい要素が必要だった。
国王の権威によって、一片の書状(貴族叙任状)により貴族の列に加わることができたということは、それまでのヨーロッパにはなかった、まったく新しい貴族像の出現を意味した。1500年までの200年間に、年平均10通の貴族叙任状が発給され、合計で2000通を数えた。
中世フランスの身分貴族にとって、イングランドとの百年戦争(1337~1453年)は一大惨禍であった。1300年に存在していた貴族家門の大部分が、1500年には断絶していた。1424年にシャルル7世が敗北を喫したヴェルサイユの戦いで、シャルル王の騎士貴族の大半が戦死した。そして捕虜となった家族の身代金調達は、多くの門閥を疲弊させ、没落させた。このあと貴族となったのは、中世貴族との系譲関係をもたない新参者たちの家系であった。
中世イングランドでは、フランスと同じ意味での貴族身分は成立しなかった。
フランスのような貴族叙任状が発給されることはなかった。荘園領主、国王役人、地方政治の主要メンバーである騎士などが圧倒的多数の平民に君臨していた。
イングランドでは、中世の貴族を規定するための唯一有効な定義は、その者が貴族のような服装をして、貴族のように振舞って、物笑いにならないことである。そして、イングランド王権は、議会という枠組みのなかで貴族を位置づけた。
十分に理解できないところも多々ありましたが、貴族の発生についてのフランスとイギリスの違いは、面白いと思ったことでした。ヨーロッパでは、今でも事実上、貴族身分というのが生きているそうですから驚きます。
春らんまんの候となりました。朝、雨戸を開けると、色とりどりのチューリップが目に入ります。パステルカラーというのでしょうか、鮮やかなピンク色のチューリップがひと固まり咲いて、春だよ、うれしいなと声をかけあっています。見ていると、心が軽く浮き浮きしてきます。
朝、咲いている本数を数え、午後からまた数えると、倍近くも増えています。20日の午前中に数えたら、80本ほどでした。
(2008年11月刊。2800円+税)
カテゴリー
- イギリス・ロシア (1)
- モンゴル・戦前(日本史) (1)
- 社会・アメリカ (1)
- 日本史(戦前・戦後) (1)
- 人間・司法 (1)
- フランス・司法 (1)
- 昆虫・ゴリラ (1)
- インドネシア (1)
- 社会・犬 (1)
- 日本史・ベトナム (1)
- 生物(タコ) (1)
- 生物・ネズミ (1)
- 生物・人間 (1)
- 人間・アイヌ (1)
- 地球・宇宙 (1)
- 世界史(戦前) (1)
- フランス・シリア (1)
- 花・昆虫 (1)
- 人間・サル (1)
- フランス・人間 (1)
- 人間・スイス (1)
- 韓国・人間 (1)
- 社会・司法 (3)
- アメリカ・司法 (2)
- フィンランド (1)
- ドイツ・イギリス (1)
- 生物(クモ) (1)
- ロシア・カザフスタン (1)
- 中国・日本史(戦前) (1)
- アメリカ・アフリカ・イギリス (1)
- 人間・犬 (1)
- 犬・猫 (2)
- オーストリア (2)
- 社会・女性・フランス (1)
- 社会・韓国 (1)
- 犬・人間 (1)
- 犬(オオカミ) (1)
- 人間・イギリス (1)
- ヨーロッパ・フィンランド (1)
- バングラデシュ (2)
- 日本史(戦前)・韓国 (1)
- 日本史(江戸)・社会 (1)
- 人間・チンパンジー (1)
- イタリア・社会 (1)
- アメリカ・社会 (2)
- ヨーロッパ(リトアニア) (2)
- 社会(アイヌ) (1)
- アメリカ・動物 (1)
- 日本史(戦前)・ドイツ (2)
- 日本史(戦前)・朝鮮 (1)
- 中国・日本 (1)
- チェコ (1)
- 日本史(戦前)・ヨーロッパ (1)
- アメリカ・ロシア (2)
- 牛 (2)
- 朝鮮・日本史(戦前) (1)
- オオカミ (1)
- フィリピン (2)
- 社会・中国 (1)
- 中東(シリア) (1)
- 鳥・人間 (1)
- オランウータン (1)
- 日本史(江戸時代) (3)
- 日本史(戦前)・アメリカ (1)
- ドイツ・ブラジル (1)
- 地球 (2)
- スペイン (3)
- 人間・アメリカ (1)
- 日本史(古代) (15)
- 南アメリカ(ペルー) (1)
- 北朝鮮・中国 (1)
- 社会(司法) (6)
- アメリカ・ベトナム (1)
- 生物(人間) (2)
- 生物(アリ) (1)
- 生物(クマ) (1)
- アフガニスタン (2)
- リトアニア (1)
- 司法(アメリカ) (2)
- メキシコ (1)
- 日本史(室町) (2)
- 明治・人間 (1)
- 戦前 (1)
- ブラジル (1)
- 社会・人間 (2)
- 生物(ハチ) (1)
- ヨーロッパ(ポーランド) (5)
- 犬・アメリカ (1)
- 生物・魚 (2)
- キューバ (3)
- 中国(台湾) (2)
- イラン (4)
- ブータン (1)
- 日本史(奈良) (2)
- 人間・脳 (6)
- 日本史(大正) (1)
- シリア (7)
- カナダ (2)
- 宇宙・星 (1)
- 蜂 (2)
- ドイツ・シリア (1)
- 鳥 (24)
- 魚 (4)
- 生物(昆虫) (5)
- 日本史(戦争) (1)
- カンボジア (1)
- トルコ (2)
- ドイツ・ポーランド (1)
- 中国・アフリカ (1)
- ネパール (1)
- ベトナム (6)
- 韓国 (13)
- イスラエル (4)
- 猫 (3)
- 司法(明治) (1)
- 生物(鳥) (8)
- 生物(植物) (3)
- ヨーロッパ(ギリシャ) (2)
- 北朝鮮 (3)
- スウェーデン (4)
- 南アメリカ (3)
- ドイツ・ロシア (6)
- 生物(馬) (1)
- ヨーロッパ・スペイン・ベルギー (1)
- 社会 中国 (1)
- タイ (2)
- ゴリラ (3)
- ポーランド (4)
- イラク (3)
- 生物 (59)
- ローマ (1)
- イタリア (7)
- 生物(木) (1)
- 日本史(戦前) (134)
- 日本史(戦後) (36)
- 警察 (12)
- アフリカ (30)
- イギリス (35)
- アジア (29)
- アジア(フィリピン) (5)
- アメリカ (370)
- インド (14)
- サル (7)
- ドイツ (110)
- ファンタジー (2)
- ヨーロッパ (96)
- ロシア (57)
- 世界 (8)
- 世界(フランス) (36)
- 世界(ヨーロッパ) (20)
- 世界(ロシア) (7)
- 世界史 (4)
- 世界史(古代オリエント) (1)
- 世界史(現代) (1)
- 世界史(ヨーロッパ) (7)
- 世界史(中国) (2)
- 世界(アフリカ) (32)
- 世界(アラブ) (11)
- 中世史 (1)
- 中南米 (2)
- 中国 (108)
- 中東 (16)
- 人間 (327)
- 司法 (484)
- 司法(江戸) (7)
- 司法(警察) (33)
- 宇宙 (52)
- 恐竜 (8)
- 日本史 (68)
- 日本史(中世) (27)
- 日本史(平安時代) (32)
- 日本史(戦国) (120)
- 日本史(明治) (78)
- 日本史(近代) (32)
- 日本史(古代史) (45)
- 日本史(江戸) (160)
- 日本史(現代史) (76)
- 日本史(鎌倉時代) (18)
- 明治 (4)
- 朝鮮 (36)
- 朝鮮(韓国) (46)
- 東南アジア (10)
- 江戸時代 (79)
- 犬 (21)
- 現代史 (2)
- 生きもの(魚) (12)
- 生き物 (193)
- 生き物(小鳥) (16)
- 生き物(ゾウ) (4)
- 生物(花) (4)
- 社会 (1354)
- 脳 (39)
- アメリカ・メキシコ (1)
- エジプト (1)
- フランス (19)
- 中国・朝鮮 (1)
- 人間・ボノボ (1)
- 動物 (4)
- 日本史(中世・戦国) (1)
- 朝鮮・日本史(戦国) (1)
- 植物 (1)
- 江戸 (14)
- 江戸・明治 (1)
- 生物(虫) (1)
Backnumber
- 2020年9月
- 2020年8月
- 2020年7月
- 2020年6月
- 2020年5月
- 2020年4月
- 2020年3月
- 2020年2月
- 2020年1月
- 2019年12月
- 2019年11月
- 2019年10月
- 2019年9月
- 2019年8月
- 2019年7月
- 2019年6月
- 2019年5月
- 2019年4月
- 2019年3月
- 2019年2月
- 2019年1月
- 2018年12月
- 2018年11月
- 2018年10月
- 2018年9月
- 2018年8月
- 2018年7月
- 2018年6月
- 2018年5月
- 2018年4月
- 2018年3月
- 2018年2月
- 2018年1月
- 2017年12月
- 2017年11月
- 2017年10月
- 2017年9月
- 2017年8月
- 2017年7月
- 2017年6月
- 2017年5月
- 2017年4月
- 2017年3月
- 2017年2月
- 2017年1月
- 2016年12月
- 2016年11月
- 2016年10月
- 2016年9月
- 2016年8月
- 2016年7月
- 2016年6月
- 2016年5月
- 2016年4月
- 2016年3月
- 2016年2月
- 2016年1月
- 2015年12月
- 2015年11月
- 2015年10月
- 2015年9月
- 2015年8月
- 2015年7月
- 2015年6月
- 2015年5月
- 2015年4月
- 2015年3月
- 2015年2月
- 2015年1月
- 2014年12月
- 2014年11月
- 2014年10月
- 2014年9月
- 2014年8月
- 2014年7月
- 2014年6月
- 2014年5月
- 2014年4月
- 2014年3月
- 2014年2月
- 2014年1月
- 2013年12月
- 2013年11月
- 2013年10月
- 2013年9月
- 2013年8月
- 2013年7月
- 2013年6月
- 2013年5月
- 2013年4月
- 2013年3月
- 2013年2月
- 2013年1月
- 2012年12月
- 2012年11月
- 2012年10月
- 2012年9月
- 2012年8月
- 2012年7月
- 2012年6月
- 2012年5月
- 2012年4月
- 2012年3月
- 2012年2月
- 2012年1月
- 2011年12月
- 2011年11月
- 2011年10月
- 2011年9月
- 2011年8月
- 2011年7月
- 2011年6月
- 2011年5月
- 2011年4月
- 2011年3月
- 2011年2月
- 2011年1月
- 2010年12月
- 2010年11月
- 2010年10月
- 2010年9月
- 2010年8月
- 2010年7月
- 2010年6月
- 2010年5月
- 2010年4月
- 2010年3月
- 2010年2月
- 2010年1月
- 2009年12月
- 2009年11月
- 2009年10月
- 2009年9月
- 2009年8月
- 2009年7月
- 2009年6月
- 2009年5月
- 2009年4月
- 2009年3月
- 2009年2月
- 2009年1月
- 2008年12月
- 2008年11月
- 2008年10月
- 2008年9月
- 2008年8月
- 2008年7月
- 2008年6月
- 2008年5月
- 2008年4月
- 2008年3月
- 2008年2月
- 2008年1月
- 2007年12月
- 2007年11月
- 2007年10月
- 2007年9月
- 2007年8月
- 2007年7月
- 2007年6月
- 2007年5月
- 2007年4月
- 2007年3月
- 2007年2月
- 2007年1月
- 2006年12月
- 2006年11月
- 2006年10月
- 2006年9月
- 2006年8月
- 2006年7月
- 2006年6月
- 2006年5月
- 2006年4月
- 2006年3月
- 2006年2月
- 2006年1月
- 2005年12月
- 2005年11月
- 2005年10月
- 2005年9月
- 2005年8月
- 2005年7月
- 2005年6月
- 2005年5月
- 2005年4月
- 2005年3月
- 2005年2月
- 2005年1月
- 2004年12月
- 2004年11月
- 2004年10月
- 2004年9月
- 2004年8月
- 2004年7月
- 2004年6月
- 2004年5月
- 2004年4月
- 2004年3月
- 2004年2月
- 2004年1月
- 2003年12月
- 2003年11月
- 2003年10月
- 2003年9月
- 2003年8月
- 2003年7月
- 2003年6月
- 2003年5月