弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年3月22日

秋月記

日本史(江戸)

著者 葉室 麟、 出版 角川書店

 うむむ、これは面白い。よく出来ている時代小説です。思わず、ぐいぐいと話にひきこまれてしまいました。このような傑作に出会うと、周囲の騒音が全部シャットアウトされ、作中の人物になりきり、雰囲気に浸り切ることができます。まさに至福のひとときです。
 ときは江戸時代も終わりころ(1845年)、ところは筑前秋月藩です。秋月藩は、福岡藩の支藩でありながら、幕府から朱印状を交付された独立の藩でもあった。秋月藩の藩主黒田長元(ながもと)のとき、御用人、郡(こおり)奉行、町奉行などを務めた間(はざま)余楽斎が失脚し、島流しの刑にあった。この本は、その余楽斎がまだ吉田小四郎という子ども時代のころから始まります。
 小四郎たちは、秋月藩家老の宮崎織部が諸悪の根源であるとして一味徒党を組んで追い落としにかかります。秋月藩は大坂商人から5千貫にも及ぶ借銀をかかえているのに、家老の織部たちは芸者をあげて遊興にふけっている。許せない、というわけです。秋月藩で新しく石橋をつくるのにも、洪水対策でもあるのに、藩財政窮乏の折から無用だという声もあるなかで、強行されるのでした。
 小四郎たちは、家老織部の非を本藩である福岡藩に訴え出て、ついに家老織部は失脚し、島流しになるのです。そして、秋月藩の要職を小四郎たちが占めていくわけですが、そう簡単に藩財政が好転するはずもなく、また、不幸なことに自然災害にも見舞われます。
 やがて、小四郎たちは、家老織部が実は福岡藩の陰謀の犠牲になったのではないか、自分たちも手のひらの上で踊らされているだけではないのか、と思うようになりました。
 手に汗にぎる剣劇もあり、ドンデン返しの政争ありで、登場人物たちの悩みも実によく描けているため一気に読みすすめました。
 ちなみに秋月藩の生んだ葛湯は、私が今も大変愛用しているもので、全国にいる友人に贈答品として送ると大変喜ばれています。それはともかくとして一読をおすすめします。
(2009年1月刊。1700円+税)

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