弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年3月 4日

テロの経済学

アメリカ

著者:アラン・B・クルーガー、 発行:東洋経済新報社

 著者の研究の一つは、テロリストは必ずしも「貧しく、教育を受けていない人たちではない」ということです。私も、その点については、あまり異論はありません。ある程度の教育を受けた人の方が、世の中の不公正さに対する怒りを強く感じ、それを行動に移す確率も高いと思うからです。ところが、この本には、その視点が弱いように思いました。その点に不満はありますが、テロリストの実像について、科学的に実証しようとした点は評価できると思います。
 物質的な貧困や、不十分な教育がテロリズム支持とテロ行為への参加をもたらす重要な原因であるという仮説は、ほとんどの証拠において否定されている。
 それは、そのとおりかもしれません。しかし、ここには、格差、不平等の視点が欠けています。みんながおしなべて貧乏であれば、みんな我慢するし、我慢できるのです。しかし、腹ぺこの人の前に腹いっぱい食べて贅沢している人がいたら、腹ぺこの人の中に我慢できず暴発してしまう人が出てくるのは必至でしょう。
 アルカイダのメンバーの35%が大学卒であり、かつ、熟練を要する職業層の出身が45%もいる。ほとんどのテロ組織は、エリート集団出身者で構成されている。そういえば、ロシア帝政時代のテロリストたち(たとえばデカブリスト)は、みな大学生か大学出身者であり、その多くは貴族の子弟でした。
 ただし、アイルランド共和国軍(IRA)は、教育水準が低い。
 ほとんどの場合、テロリストは生きる目的をなくした人ではない。逆に、彼らは、そのために死んでもよいと思うほど、何かを深く信じている。
 テロ攻撃の88%は、実行犯の出身国で起きている。ほとんどの国際テロリズムが、実際は地域的なものである。事件の9割は、実行犯の出身国とテロ攻撃のおきた場所は同じだった。テロリストと、その犠牲者は同じ国の出身であることが多い。
 イギリス・ロンドンでのテロ攻撃に従事した7人の男性と1人の女性のうち、5人は医師であり、1人はエンジニアだった。
 日本語のタイトルは適切ではないように思います。テロリストについて分析した本ですから……。それにしても、自爆テロはなくす必要がありますよね。そのためには、若者たちが、なぜ、こんなにも自爆テロに走ってしまうのか、もっと真剣に考え、対策を講じるべきだと痛切に思います。

(2008年8月刊。2000円+税)

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