弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年2月16日

昆虫の知恵

生き物

著者 普後 一、 出版 東京農工大学出版会

 いやはや、昆虫って、すごいですね。昆虫に学べ、とは、よく言ったものです。そのとおりですね。
 ヒトの皮膚にとまった蚊は、皮膚の下にある毛細血管を探り当てるために、足の裏にある感覚器官から超音波を発信し、その反響を利用して血管の位置を感知する。
 うへーっ、まるで腹部エコー検査みたいですね。
蚊が吸血するとき、体重の2倍ほどのヒトの血液を一気に吸って消火器に流し込む。一度に腹いっぱい吸血するため、異なったヒトの血液型が混じり合うことはない。そして消化酵素ですぐに消化吸収されるため、血液が凝固することはない。ふむふむ、なるほど。
 蚊のもつ抗血液凝固物質は、酵素反応の最終段階をストップさせる。このプロリキシンSという物質は、血液を凝固させないほか、血管の平滑筋を弛緩させる作用を持っている。蚊は、吸血するとき、ヒトの皮膚感覚を麻痺させるために唾液を注入し、ヒトに気づかれないようにしている。蚊の唾液がアレルギー反応を引き起こし、かゆみの原因となる。ただし、本来、蚊の唾液は吸血終了とともに蚊の体内に戻る。そのため、かゆみも止まる。ところが、吸血が中断されると、蚊の唾液がヒトの体内に残されるので、ヒトはかゆみを感じる。
 つまり、蚊の気が済むまで血を吸わせたら、かゆみはほとんど感じないわけである。
 うひょう、な、なーんと、蚊を叩き潰すことによってかゆみを感じるというわけです。でも、蚊って見つけたらすぐに叩き潰してしまいたいですよね。
 ちなみに、蚊は一般には花の蜜や果物の汁、樹液などを吸っているが、交尾したメスの蚊だけが卵のためにヒトの血を吸う。蚊のオスは人間の敵ではないということなんですね。
 生ゴミを処理するのに、アメリカミズアブを使うといいそうです。初めて知りました。50センチ角の箱にアメリカミズアブを100頭入れて高温にしておくと、有機廃棄物が効率よく分解処理される。ふーん、そうなんですか……。いま、我が家はEMボカシで生ゴミを処理していますが、これより、もっと簡単で効率が良さそうです。
 モンシロチョウからピエリシンという物質がとれ、抗がん作用に役立つという話も初めて知りました。昆虫って、偉大なる遺伝子資源なのですね。絶滅させたら、人類にとって巨大の損失です。ミズスマシやセミの抜け殻が糖尿病に良いなんて、本当でしょうか。
 傷口にウジ(ハエの幼虫)を這わせておくと、早くよくなるという話にも驚きました。戦場での実際の体験的知見による発見だそうです。
 ウジは、自分の持つタンパク質分解酵素を分泌して壊死状態の組織を溶かし、それを吸い上げることによって壊死組織を除去する。このタンパク質分解酵素は、健全な組織を融解することはないので、壊死組織だけが選択的に取り除かれる。そして、この物質はMRSAなどの薬剤耐性菌をふくむ病原菌に対する殺菌作用ももっている。ただし、ウジを使った治療法には健康保険が適用されない。見かけによらず、ウジも人間に役立つということなんですね。
 将来の宇宙食として有望なのは、昆虫(カイコガ)である。カイコガの蛹は、栄養的に非常に優れ、絹は用途が広く、微粉末にして食材にもできる。カイコガをキャットフードに25%混ぜると、猫は喜んで食べるそうです。
 バッタが幼虫時代に劣悪な環境で育つと、身体が褐色となり凶暴化して、大害虫と化す。これまた人間に似た話ですね。
 うひゃあ、すごいすごい。昆虫ってバカにできませんね。人間は昆虫に大いに学ぶべきです。
 先週末、春一番の突風が吹き荒れました。まともに傘をさして歩けず、電車も乱れていました。でも、風が温かいのです。ああ、春一番だとすぐに思いました。隣家の庭に今年も黄水仙が列をなして咲いています。輝くばかりの黄金色です。そして、近所にはしだれ紅梅も咲き誇り、春到来を感じさせます。
(2008年5月刊。1400円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー