弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年1月19日

ちひろの花ことば

社会

著者:いわさきちひろ絵本美術館、 発行:講談社文庫

 小さな文庫本ですが、ちひろの絵がカラー図版でたっぷり楽しめ、心が温まります。あなたも、どうぞカバンに忍ばせて、ちょっと疲れたな、そう思ったときに頁を開いてみてください。きっと気が休まりますよ。
 上條恒彦の歌があります。とてもいい歌です。その歌詞は、なんと、ちひろが自分の結婚式を描いたものだったのです。
 その日、焼け残った神田のブリキ屋さんの2階の私の部屋は、花でいっぱいでした。私は千円の大金をぜんぶ花にしてしまったのです。
 あとは、ぶどう酒一本と、きれいなワイングラス2つ。
 これが四面楚歌のなかでの、二人だけの結婚式でした。
 すごーい、すごいですね。いやあ、すごいです。私の結婚式は、当時はやりの会費制でしてもらいました。夏の終わり、クーラーのきかない労働会館のホールです。ビデオ(今は保存のためCDに変換しています)を見ると、参加者は暑さのために、汗をふきふきしています。今になって申し訳ないと思いますが、当時はこの冷房のない部屋が公共施設にはあったのです。
 ちひろの花の絵は、ありのままの花を描くというより、大胆な構図のものが大半です。それも、ちひろが本当に花が好きで、よく見ていたからこそ描けたのでしょう。
 ちひろは、「春の花には、しきりに蝶が来たり、蜂が来たりする。花のほのかな香りの中にいると、にぶい蜂の羽音が聞こえてくる」と書いた。草むらにしゃがみこみ、花を見つめ、草花の息吹に耳を澄まし、同じ目の高さで花と語り合っていたちひろの姿が想像できる。
 ふむ、ふむ、なるほど、ですね。なんとなく分かりますね、これって……。
 ちひろの描いた子どもたちは、泣きわめくことも、おなかを抱えて笑い転げることも、怒りを撒き散らすことも、ほとんどしない。いつも、どちらかといえば、静かな表情を見せている。ただ、子どもたちと同じ画面に描かれたさまざまな草や花が子どもの心や個性を語っている。言葉には尽くせない思いを花が語っているのかもしれない。
 うーん、これって、ホント、とても的確な表現ではないかと思います。ホントホント、そうですよね。しっとり心に訴えかけてくる子どもの顔ばかりです。
 ちひろは童画について次のように語りました。
「さざなみのような画風の流行に左右されず、何年も読み続けられる絵本を、せつに描きたいと思う。もっとも個性的であることが、もっとも本当のものであると言われるように、私は、すべて自分で考えたような絵本をつくりたい。この童画の世界から、挿絵という言葉を亡くしてしまいたい。童画は、決してただの文の説明であってはならない。その絵は、文で表現されたのとまったく違った面からの、独立した、ひとつの大切な芸術だと思う」
 ふむふむ、まさしくその通りでしょうね。
 ちひろの絵の最大の特色は、豊潤無類の色感の中にある。
 いやあ、本当にそのとおりです。さすが、美術評論家(河北倫明)はいいことを言いますね。まったく同感です。
 年賀状に私を年の暮れにお茶の水駅で見かけたと書き添えていた友人がいました。せっかくですので、一声かけてくれたらよかったのですが……。かなり前のことですが、日比谷公園内を歩いていると、目の前を高校時代の同級生が通っていくのを見つけました。つい声をかけそびれてしまい、あとでハガキを出してそのことを告げてやりました。思わぬところでのすれ違いって、世の中にはあるのですよね。

(2006年9月刊。667円+税)

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