弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2008年12月28日

悩めるアメリカ

アメリカ

著者:実 哲也、 発行:日経プレミアシリーズ

 アメリカの国民は、いま3つの大きな不安を抱えている。
 一つは安全に対する不安。9.11同時テロ以来、大きな不安が消え去らない。国民は、どう対応していいのか分からないもどかしさを感じている。
 二つ目は、暮らしの不安。失業や病気になっても病院に行けない、マイホームも値上がりしない。この不安の背景には、急成長する中国やインドが経済大国としてのアメリカの立場を危うくしてしまうのではないかという脅威認識もある。
 三つ目は、社会の変容に対する不安。不法移民を含む移民の増加に対する警戒感である。
 アメリカでは借金を支払えなくなって破産する人が多いが、その半分は治療費が支払えないため。だから、病気になっても医者にかからない人が増えている。それには、医療費の高騰と無保険者の増加がある。
 テキサス州ヒューストンは、世界でも最高レベルの病院が集まっている。しかし、ヒューストンでは無保険者の比率が3割をこえている。テキサス州に中小企業が多いことが、無保険者を作り出している。
 イラクに派遣されているアメリカ軍の3分の1は、パートタイム兵士である。つまり、予備役や州兵である。予備役と州兵の総数は130万人。これは、正規軍140万人とほとんど同数である。
 イラクのアブグレイブ刑務所の虐待事件に関わり処分された女性兵も、予備役だった。大学費用稼ぎが予備役志望の動機になっている。お金にゆとりのない家庭の若者たちが人員募集のターゲットになっている。アメリカの若者にとって、軍隊に入るのは、非常に現実的な選択肢なのである。その意味で、戦争は遠い存在ではない。
 国務省にいたときには、公式答弁から外れることのなかったアメリカの外交官たちは、退官した時に、口をきわめてブッシュ政権の外交を批判する。
 アメリカでは、大学教育さえ受けていれば所得が落ち込む心配はないという時代は遠い昔になってしまった。
 差し押さえによって、せっかく手にしたマイホームを失う人は、2007年は前年比5割アップの150万件、2008年には250万件に達する見込みだ。
 アメリカ発の金融危機が世界の経済を直撃し、日本でも次々に首切り旋風に見舞われています。でも、日本では、まだ赤字になってもいないのに、早々と労働者の大量首切りを断行しようとしています。まさに、大企業は社会的存在ではなく、目先の利益ばかりを追う私企業にすぎないわけです。そんな大企業に対して、税制面で手厚く優遇しているなんて、許せません。

(2008年10月刊。850円+税)

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