弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2008年12月22日
「声」の秘密
人間
著者:アン・カープ、 発行:草思社
声は人間が持つきわめて強力な道具であり、意思の疎通において何より重要なもの。声は体の一部であると同時に、心の一部でもある。
誰かのことを本当に知りたいなら、その人が話すのを聞いた方がいい。
いやあ、本当にそうですよね。聞いているだけでうっとりする声ってありますよね。その点、アソー氏なんて最悪です。聞いていると、悪代官かギャングを連想させてしまう悪声です。
声は聴診器でもある。体の異常を絞り出し、病名まで教えてくれる。疲れも確実に声から聞き取れる。声はコミュニケーションのカギを握っている。にもかかわらず、その大切さをほとんど気づいていない。
映画の吹き替えは、どんなにうまくやっても肝心の効果が薄い。私は映画は字幕版しか見ないようにしています。
海外に出かけて困ることの一つは、自分の国にいるのと違って、声から情報を引き出せなくなること。
耳は1400種類の周波数(ピッチ)を聞き分ける。声の周波数と大きさとをさまざまに組み合わせると、耳は30万~40万の音を聞き分けている。
自分の声の録音を聞かされると、自分の声とは思えないのは、自分の声を聞くときには、空気を解す(空気伝導)ではなく、骨を介して(骨伝導)聞いているから。いわば、自分の頭の中を通った音を聴いているから。
胎児は、妊娠14週で音に反応しはじめ、28週で聴覚刺激に反応し、声を識別している。母親の声は胎児の心拍数を大幅に遅くする。心を落ち着かせるということだ。新生児は、生まれたその日から大人の話す言葉に合わせて体を動かしている。なーるほど、すごいですね。
大人が年をとるにつれ、声は同性の親に似てくる。そうなんですよね。良かれ悪しかれ……。
法廷で一番重要な道具は声だ。その使い方を心得ている者こそ偉大な弁護士と呼ばれる。場の雰囲気を声で自在に作り出せない弁護士は成功しない。いやあ、そういわれると、そうなんでしょうが……。
失語症グループにアメリカのレーガン大統領(当時)の演説を聞かせると、腹を抱えて笑いだした。わざとらしさや嘘を声から感じ取ったのだ。ふむふむ、なるほど、ですね。
女性の声帯は1日に100万回以上も振動する。男性だと50万回ほど。男女の声が違うのは、咽頭・喉仏の違いによる。
男性の方が声が低いのは、女性よりも咽頭が大きく、声帯も長く厚いから。思春期に体が変化した少年の声帯は1センチも大きくなり、喉仏が出るのに対して、少女の声帯は3、4ミリしか大きくならない。男性の声の平均ピッチ(周波数)は120ヘルツ。女性の方は225ヘルツである。
生後6か月までは男児も女児も声の高さは85~97ヘルツ。生後1年たつと、女児は110ヘルツに上がるのに、男児は80ヘルツに落ちる。
日本人女性ほど高い声で話す女性は世界のどこにもいない。日本人女性が丁寧にしゃべっていると、450ヘルツという異常なほどの高音になる。イギリス人女性は320ヘルツを超えることはない。
ヒトラーは、書き言葉より話し言葉を好んだ。話す言葉には魔力があると考えていた。ヒトラーは洗練された演説手法を慎重に計算して用いていた。原稿を読むのではなく、主な項目とキーワードを記した大まかなメモを見ながら演説した。そうすると、自分の心の赴くままに話しているような自然さと親しさが感じられる。ヒトラーは野次を飛ばす人間にもうまく対処できたし、喝采を浴びたときには、拍手が収まりかけた絶妙のタイミングで口を開くコツを心得ていた。
ヒトラーは会場のホールにわざと遅れて入っていく。そして、耐えがたいほど長く間をとった。それから、ゆっくりと語りだす。滑り出しの調子を低く抑えることで緊張を高めるのだ。次第に声を大きくしていき、野次を受けて口調も戦闘的になって、痛烈な皮肉を織り交ぜていく。叩き潰す、力、容赦なく、憎悪といった言葉を意図的に繰り返しながら自らを叱咤激励していき、ほとんどヒステリックといえる領域まで声を高くして強い憤りを吐き出す。最高潮になるとヒトラーの声はかすれる。だが、決して我を忘れることはない。
普通の人が怒ったときの声は200ヘルツであるのに対して、ヒトラーの演説は228ヘルツもあった。この高い声と声にともなう感情が聴く者を受け身の状態に置く。
ヒトラーの大演説はあまりに攻撃的だったので、聴衆が選べる選択肢は一つしかない。自分が攻撃されたくなければ、攻撃者に賛同するほかないのだ。
いやあ、大変勉強になりました。学者って、ホントすごいですね。
(2008年10月刊。2200円+税)
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