弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2008年12月18日

強い会社は社員が偉い

社会

著者:永禮 弘之、 発行:日経BP社

 成果主義制度は、実は人件費削減の方便だった。日本企業は正社員を重用するどころか、正社員を減らす方向に進んでいる。派遣社員やパートに仕事を任せ、業務の多くをアウトソーシングし、コストダウンを徹底的に行うことで、短期的な利益を確保していく。そして、仕事のやりがいや雇用の安定に対する労働者の満足度は長期的にみて下がっている。
 この底流には株主資本主義という考え方がある。株主は短期的な株価上昇を求め、短期的な利益追求に走りがちである。そんな企業は、社員を資産として見ず、コストとみなして切り捨てる。その結果、会社と社員は友好関係から敵対関係になった。
キャノンは大分だけで1200人もの従業員を首切るそうです。赤字どころか、この1年間で2800億円の余剰金を出していながら、です。日本経団連の御手洗会長の会社ですから、日本の企業の将来はない。というか、日本の若者の未来を奪う経済界は、自分さえよければいいと考え、日本の将来をダメにしています。そのくせ、若者に対して愛国心の欠如を云々というのですから、まさしく噴飯ものです。プンプンプン。
 著者は、短期的利益だけを追求し、個人をないがしろにする経営は間違いだと断言します。そして、会社の中でのびのびと、しかし厳しく仕事をする正社員。彼らこそ日本企業の明日をつくるのだと強調します。まったく同感です
 社員を人件費というコストとして見るのではなく、顧客への価値、バリューを生み出す源泉としてとらえ、社員の活用を第一に考える経営が今こそ必要なのだ。本当にそうだと思います。
 差別的な扱いを受け、低賃金に甘んじる非正規社員が増える一方で、正社員は人員削減のしわ寄せによる仕事量の増大と成果主義の導入による目先ばかりの社内競争によって、心も身体も疲れている。
 顧客や社会に役立つという視点を第一にすることで、仕事への使命感が芽生え、そこにリーダーシップが生まれる。リーダーシップという土台の上に、仕事に必要な経験やスキル、知識を身に着けていく。
 気分障害(うつ病など)の患者は、1999年から2005年にかけて、20代で3万1000人から8万9000人に、30代で5万6000人から16万2000人に、それぞれ3倍も増えている。いやあ、これって大変なことですよ。次代を担う世代がこれでは、本当に日本の将来はありません。
 偽装請負までしてワーキングプアの非正社員を増やす一方で、最高益を更新し続けることが「優良企業」と言われる会社の望ましい経営の在り方なのか、考え直すべきだ。まったくそのとおりです。日本経団連は根本的に間違っています。無責任ですよ。
 日本企業の若手社員は、自分の勤める会社を見限り始めている。2000年以降、大卒新入社員全体の3分の1が、入社3年内に会社を辞める。
 短期の業績に振り回される成果主義人事制度は、高い能力を活かせる仕事があるからこそ会社に長くコミットしたいという人にとっては魅力的でない。
 顧客への高い価値を創造できるような優秀な人は、会社が短期の成果に右往左往しないで、自分の得意技を信じて、魅力的な仕事を任せてくれることを望むものだ。
 仕事をワクワクしたものにするには、中身も大事だが、自分の意思で選ぶことができるかが効く。社員の働く意欲と能力を高めるには、本人がやりたいことをやってもらうのが一番の近道である。人間の創造性を伸ばすには、自発性が大切なのだ。
 社員を評価するときのポイントは、あくまでもチームの業績への貢献度に置く。
 昔と比べて、上司と部下との濃密なコミュニケーションが少なくなっている。
 実は、この本に書かれていることは、弁護士にとっても大いに参考になる内容でした。

(2008年10月刊。1600円+税)

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