弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2008年11月29日

中国、静かなる革命

中国

著者:呉 軍華、 発行:日本経済新聞出版社

 著者は、2022年までに中国は共産党一党支配の現体制から民主主義的な政治に移行するが、それは、農民・大衆の反乱という下からの革命に触発されてではなく、中国共産党のイニシアチブによって粛々と進められていくとみる。その理由が詳細に述べられていますが、なるほどとうなずくところが多くありました。でも、まだ中国は一応は社会主義社会を目ざしているのだと思うのですが……。
 旧ソ連の社会主義体制の崩壊は、ソ連邦の解体とともに進んで行った。これは、伝統的に「中国は一つ」という思想の影響を強く受けてきた中国人、とりわけ知識人をふくむ人口人の絶対多数を占める漢民族(全人口の92%)の人々にとって、感情的にとても受け入れがたいことだった。
 そこで、共産党体制に対する人々の考え方は、共産党に強い不満と怒りを持ちながらも、とりあえず共産党体制のままほうが無難だという方向に大きく変わった。
 現在の中国においては、金銭的なゆとりを持っている層が予想を超えてはるかに大きくなっており、その生活実態は、裕福さが日本の平均的サラリーマンと比較して決して遜色のない水準にまで達している。
 中国では、中産階層は現体制の安定を支える大きな柱の一つとして期待されている。
 2007年現在、中国の中産階層は、人口の1割を超える1億5000万人以上に達しているとみられている。2020年には、全人口に占める中産階層の比率が45%に達するという予測がある。中国は、いまや、アメリカに次いで世界でもっとも多くの億万長者を輩出する国になっている。
 程度の差こそあれ、中産階層入りしたほとんどの人は、所得を増やし、富を蓄積する段階において、共産党一党支配体制の恩恵を受けてきた。つまり、中国の中産階層は、共産党の「育成」があってはじめて、ほぼ皆無の状態から短期間に、ここまで急拡大することができた。
 1990年代に入って、北京、上海、広州といった大都市だけでなく、地方都市まで不動産開発ブームが巻き起こった。中国は、いまや世界の土建国家となった。
 中国の富豪の多くは、不動産業に携わっている。不動産業が蓄財産業となったのには、まさしく権力と資本の結託があった。
 経済的利益を上げるに際しての国民の自由度は大きく拡大された。これを受けて、中国社会は劇的に変化した。
 政権の維持が至上命題になったのに伴い、政党としての共産党の政治的目標と行政の目標との一体化が急速に進み、政治は実質的に行政化した。
 そして、中国社会は脱政治化に向けて大きく動き出した。
 政府レベルでGDP至上主義、個人レベルで拝金主義が蔓延した結果、中国社会の脱政治化は急速にすすんだ。
北京オリンピックを成功させることによって、長い文明の歴史を有しながらも、アヘン戦争以降、列強に蹂躙された過程で鬱積してきた中国の人びとは、その民族的屈辱感をかなり晴らすことができた。
 かつての共産党は、上層部から末端までの利益が一致していたが、今は、こうした構造が大きく変わった。党員数7730万人という巨大組織のうち、ほとんどの人は党員であっても、自らの専門知識・技能をベースに官僚やエンジニア・教師などの職業についた専門家、または労働者、農民である。共産党という組織の一員になることは、彼らにとって、よりよい出世につながるキャリアパスになりえても、生活に不可欠な要件ではない。
 共産党は、一見するとひとつの利益集団になっているが、その内部では利益の多元化が急速に進んでいる。
中国社会の現状分析として、なるほど、と思うところの多い本でした。私も中国には何回か言っていますが、行くたびに、その近代化、大変貌ぶりに驚かされます。 
(2008年8月刊。2000円+税)

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