弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2008年11月22日

すべての経済はバブルに通じる

社会

著者:小幡 績、 発行:光文社新書

 サブプライムローン破たんの本質が理解できる本です。
 投資家にとっての最大のリスクとは何か。それは、投資した資産を売りたいときに売れないということ。つまり、住宅ローン債権を他の投資家に転売できないことである。流動性のない資産に投資してしまうと、その資産を永遠に持ち続けるしかなく、その資産が生み出すキャッシュフローを長期にわたって少しずつ受け取る以外の選択肢がなくなってしまう。こうなると、財政事情が変わったり、他の投資機会が生じたりしたときにすぐに現金化しようとしてもできない、という問題が生じる。
 アメリカは、雇用の流動性の高い経済社会なので、誰も30年後の借り手の収入など予測できない。つまり、借り手の継続的な収入を頼りに融資するなんて無理だった。貸し手のサブプライムローン会社は、はじめから借り手が給料などの収入にもとづいて30年かけて返済することはまったく期待していなかった。住宅を売却させるか、住宅ローンを借り替えさせて繰り上げ返済によって完済させるつもりだった。
 サブプライムローンは、当初の2,3年のあいだは、毎月の返済額は少額だけど、その後、返済額が急増する構造になっていた。30年かけて地道に完済するという選択肢はなかった。
 これは、住宅価格が上昇し続けていくということを前提としている。住宅ローン会社はバブルに群がったのではなく、自らバブルを作り出したのである。
サブプライムのバブルが弾けて大きな損失を出したのは、素人ではなく、投資家の中でもプロ中のプロだった。投資のプロにとって、目先、ライバルよりも高いリターンを上げられるかどうかというのが最優先だった。ライバルに勝つために、リスクの高いサブプライムローンに投資した理由なのだ。
 プロの投資家は、バブルだからこそ投資している。なぜなら、バブルはもうかるからだ。プロはバブルが大好きなのである。まともな投資家は、バブルをバブルと認識せずに投資することなどありえない。バブルだと分かっているからこそ投資する。だから、投資したことに後悔することもない。
 全員がバブルだとわかってバブルに乗っており、そして、その全員が、バブルが崩壊する瞬間、その一瞬前に降りようとしているのだ。つまり、ライバルである他の投資家を出し抜いて抜け駆けしたいと全員が思っている。ところが全員の抜け駆けは、抜け駆けにはならない。同時に降りようとしたのは中途半端なプロではなく、世界に名だたるプロ中のプロの投資家だった。
 真実は、投資のプロであればあるほどバブルを探し歩き、あるいは自分でバブルを作り、膨らませ、そのバブルに最大限に乗ろうとする。つまり、バブルというのは、最初から最後まで儲かるものなのである。
 こんなギャンブル資本主義に頼るようでは、世界と日本に未来はありませんよね。 
(2008年9月刊。760円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー