弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2008年11月10日

清冽の炎(第5巻)

社会

著者:神水理一郎、出版社:花伝社

 今から40年前、全国の大学で学生がストライキに突入し、毎日のようにデモ・集会があっていました。今のおとなしい大学生の姿からは想像を絶する事態です。東大でも日大と並んで、全国の学園闘争の天王山として激しい闘争が半年以上も続きました。今をときめく政府高官もその時代の人間です。町村前官房長官は右翼スト収集派の親玉として東大・本郷で策略を得意としていました。舛添要一厚労大臣は同じく駒場でスト解除派で動き、代表団(10人)に立候補したものの、見事に落選しました。鳩山邦夫国務大臣は日和見ネトライキ派だったのではないでしょうか。少し前に自殺した新井将敬自民党代議士は過激な全共闘の闘士でした。
 「清冽の炎」の第5巻が出て、1968年4月から翌1969年3月までの1年間の東大駒場を中心とする東大闘争の全体像を明らかにするシリーズが一応完結しました。1巻は闘争の始まるまでと勃発した直後(4,5,6月)、2巻は無期限ストへ突入してからの状況(7,8,9月)、3巻は全国学園闘争と結びついて高揚すると同時に、学内で要求実現のために団交を目ざす取り組み状況(10,11月)、4巻は、ついに全学団交を勝ちとる一方で、警察による安田講堂攻防戦がショー化していった状況(12,1月)が語られています。
 今回の5巻は、全学ストを解除し、授業再開に至る経緯という地味な場面となります(2,3月)。しかし、そこで問われていることは、今日なお通じる大切な提起です。つまり、キミは、これから知識人としていかに生きていくのか、という問いかけです。これは地域で地道にセツルメント活動をした学生にとっては、まさしく人生をかける重たい問いかけでした。また、組織に入るのかどうか、労働者階級を裏切らない生き方は可能か、そのためには何をしたらよいのか、などについても真剣に議論していました。
民主的な官僚はやはり必要ではないのか。官僚機構を内側から健全なものに変えていく努力が必要なのではないか。このように問いかけて官僚になっていった学生活動家がたくさんいました。それは全共闘にも民青にも共通しています。そして、彼らは今どうしているのでしょうか?
そんなことは幻想だ。そんなに簡単に決めつけてはいけません。私の知る限り、裁判官のなかにも学生時代のそんな思いを変えることなく持ち続けている人は少なくありません。
 では、企業に入ったらどうなのでしょうか。労務管理ばかりをさせられることになってしまいかねないんどえはないか・・・。私の友人にも早々と見切りをつけて、今は弁護士また教師になった人がいます。一人はノイローゼになりかけたと言っていました。
 第1巻が発刊されたのは2005年11月でしたから、1968年4月から1969年3月までの1年間が今回の5巻で完結したのは3年ぶりだということになります。
 著者は、自分の手元に残っていたメモやチラシ・総括文集だけでなく、当時のことについてふれた本の大半を探し求め、国会図書館にある当時のチラシ・パンフを合本した資料、そして関係者からの聞き取りなど取材収集に10年以上かけたということです。そんな膨大な資料をもとにして一つのストーリーにまとめた読みものにするのは至難のわざです。弁護士活動の合間にまとめたというのは、たいしたものと言ったら身びいき過ぎでしょうか。
 登場人物があまりに多いため、いささか読みにくいことは否めませんが、東大闘争そのものが主人公の本であると思って、そこを少々我慢して読み続けていくと、当時の学生の青春日記でもあることがきっと分かると思います。思いがなかなか通じないホロ苦い青春の日々が激しい闘争に明け暮れるなかで爽やかに描かれている本でもあります。
 相変わらずさっぱり売れていないようです。ぜひ、書店で注文して買って読んでやってください。東大闘争の全貌とその過程を語るときには絶対に欠かせない本であることは私が責任をもって保証します。
        (2008年11月刊。1800円+税)

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