弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2008年11月 7日

シャドウ・ダイバー(上)

アメリカ

著者:ロバート・カーソン、 発行:ハヤカワ・ノンフィクション文庫

 水深が20メートルより深くなると、判断力と運動能力が低下する。これは、窒素酔いとよばれている状態だ。深く潜れば、窒素の作用はいっそう顕著になってくる。沈没船のある水深30メートル以上になると、条件は著しく不利になる。
 もし、何かが起きても、ただちに海面へ泳いであがることはできない。深い海で一定の時間を過ごしたダイバーは、水圧に身体を慣らしながら、あらかじめ決められた時間をおいて、徐々に上昇していかなければならない。空気が足りずに窒息することが分かっていても、そうしなければならない。パニックに陥って、「太陽とカモメ」を目ざして一目散に浮上するダイバーは、ベンズとも呼ばれる減圧症を発症する危険がある。重症のベンズでは、身体に障害が一生残ったり、麻痺したり、死に至ることもある。重症のベンズの苦痛にもだえ苦しみ、悲鳴を上げる患者を目にしたことのあるダイバーは、長時間のディープ・ダイビングのあとで減圧せずに浮上するよりは、いっそ海底で窒息して死ぬ方がましだと口をそろえて言う。
 水深40メートルでは5気圧となり、ほとんどのダイバーの頭は正常には働かない。手先がぎこちなくなり、紐を結ぶといった簡単な作業にも苦労する。知っていることでも、苦労して思い出さなくてはいけない。
 さらに、50〜55メートルに降りると、幻覚を見ることもある。
 水深60メートル以上になると、窒素酔いによって、恐怖、喜び、悲しみ、興奮、失望などの感情を、いつものようにうまく処理できない。
 急速に浮上すると、気圧は急激に下がる。それによって、組織に蓄積した窒素ガスは、ソーダのボトルのふたをポンと開けたときのように、大量の大きな泡となる。この窒素の大きな泡が、ディープ・ダイバーの憎き敵である。血流の外側で大きな泡が生まれれば、それが組織を圧迫して、血液循環を妨げる。関節内部や神経のそばなら激痛を引き起こし、痛みは数週間、悪くすれば終生つづく。脊髄や脳で発生した泡は、身体の麻痺や致命的な発作の原因となりかねない。大量の大きな泡が肺に流れ込むと、肺機能が停止してチョークスと呼ばれる障害が起き、呼吸が停止する恐れがある。大量の大きな泡が動脈系に入り込むと、空気塞栓症という肺気圧障害を陽子お越し、卒中、失明、意識不明もしくは死に至ることもある。
 水深60メートルに25分間もぐったダイバーは、1時間かけて海面へ浮上する。まず水深12メートルで5分間停止し、ゆっくり9メートルまで上がって、そこで10分間待ち、そのあと6メートルで14分、3メートルで25分を費やす。減圧のための時間は、もぐった深さと時間で決まる。時間が長くなるほど、水深が深くなるほど、減圧停止の時間は長くなる。2時間もぐったとすると、なんと9時間もの減圧が必要になる。
 うひゃーっ、す、すごーいですね。ダイビングってこんなに危険な行為なのですね。そういえばスキューバダイビングを趣味とする私の姪っ子が沖縄に飛行機で行ったら、その日は海中に潜れないって言ってました。
沈没船を見つけて、そこに入り込んだダイバーは、死の危険と隣りあわせだ。出口を見つけられなかったら溺れて死ぬ。出口を見つけても、それまでに空気を使い果たしたら、適切な減圧をするための空気がもはやないことになる。
大西洋の沖の海底でドイツ軍のUボートを発見したダイバーの話です。ダイビングって、こんなに死の危険と隣り合わせのものだということを知って、大変驚いてしまいました。
 
(2008年7月刊。700円+税)

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