弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2008年11月 2日

不平等国家、中国

中国

著者:園田 茂人、 発行:中公新書

 中国の不平等現象には、市場経済を導入しているすべての地域で見られる普遍的な現象と、社会主義で顕著に見られる特殊な現象が複雑に絡んでいる。
 中国で腐敗が深刻化しているのは、中国が党の幹部や官僚を中心とした社会主義的国家運営をし、彼らに巨大な権力が与えられていることと無関係ではない。
 1992年の中国で下海(シアハイ)という言葉が流行した。党や政府の幹部や学者、技術者などがその職を辞め、経済界に身を投じることを意味している。1992年に「下海」した官僚は12万人に達する。
 1991年に10万社だった私営企業は2004年に365万社となった。1990年代半ばからは、それまでの国有企業が私営企業へと転換していった。
 社会主義の中核部分から市場経済の担い手が現れたことは、それだけ市場経済化が本格化したことを意味する。同時に、共産党員が市場経済の中核に位置するようになり、経済的資源の多くを手にする可能性が高くなったことも意味している。国有企業の民営化や「下海」を通じて、1990年代半ば以降、多くの共産党員が私営企業のオーナー経営者になっていった。
 それまで共産党への入党が認められていなかった私営企業家を先進的な生産力を支える階層とみなし、彼らを取り込むことで広範な人民の利益を代表しうるというメッセージを送った。これは私営企業は資本家であり、階級敵だといった公式的階級制と決別したことを意味している。
 党員比率の点で、中国共産党は、もはや農民労働者を基盤としていない。2000年初めに党中央組織が極秘のうちに党員対象で質問した結果、共産主義を信じるか、という問いに対して、7割以上が「信じない」と回答した。4分の1以上の党員が「もう一度入党の誘いを受けても入党しない」と回答した。
 中国の人々がチベット問題について冷淡なのは、民族や宗教が不平等の原因になっているという意識が薄いからだ。
 中国には、日本語で死語になりつつある「立身出世」の観念が依然として生きている。子どもの教育費かせぎのための農村からの大量の出稼ぎ者、子どもの学費捻出のために親は自分の食費を切り詰めている。
 一般家庭の支出における教育費の割合は3分の1に達している。現在の中国における過酷なまでの学歴獲得競争は、さまざまな理由で大学に進学することが出来なかった親たちの「リターンマッチ指向」の現れである。
 中国の人々は、学歴によって所得が決まることに異議を唱えるどころか、それを公正なものとして認めている。権力を利用した高収入の獲得には批判的だが、学歴など業績主義的要因の高収入には肯定的なのが中国人の一般的な傾向だ。
 中国の高学歴者は外資系企業(18%)で一番高く、国有事業体(16%)、国家機関(16%)で働く人がこれに続く。国家機関で働く者の57%、国有事業体で働く者の26%が党員資格を持っている。国家機関や国有事業体といった、共産党の幹部が集中する職場の平均年収は高い。
 私は、マスコミがときとして振りまく「中国・脅威論」にはまったく根拠がないと考えています。 
(2008年5月刊。740円+税)

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