弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2008年10月29日
弁護士を生きる
司法
著者:福岡県弁護士会、 発行:民事法研究会
新人弁護士へのメッセージというサブタイトルがついています。たしかに、一人でも多くの若手弁護士に読んでほしい内容です。
まず、オビの文句を紹介します。これは、出版社が作ったキャッチコピーです。
弁護士とは何なのか!どう生きるべきなのか!多様な生き様から真実の姿が見える。水俣病、ハンセン病、薬害エイズなど、歴史的な事件に弁護士はどう向き合い、涙し、闘ってきたのか!社会の中で、地域の中で、弁護士は市民とどのように向き合い役割を果たすべきか!求められる資質とは!
ここで語られている内容は、実は5年前に「明日の弁護士を語る」という卓話会でのものです。したがって、数字などが少し古くなっていますし、法科大学院がスタートする前でしたので、少し現実と食い違うところもあります。しかし、そうは言っても、弁護士の仕事そのものがそんなに大きく変わることはありません。いったい弁護士とは何か、どんな仕事をしているのか、そこで何を悩み、考えているのか、仕事上の工夫としてはどんなことが試みられているのか、などなどについて、実に豊富な経験が率直に語られていて、大変勉強になります。
木梨吉茂弁護士の話によると、今は大変風通しのよいといわれている福岡県弁護士会も、ご多聞にもれず、かつては長老の支配する窮屈なところだったようです。「三元老、五奉行」なるものがいて、どこかで会長以下の役員は決まっていたというのです。最近は、正々堂々と公正な選挙で役員は決まっています。もっとも、日弁連副会長選挙について最近も激烈なものがありました。といっても県弁副会長のほうは、その年代の弁護士に懇願して就任してもらっているという実情があります。
刑事専門と自他ともに認めてきた徳永賢一弁護士(惜しくも本年6月に亡くなられました)は、なんと27件もの無罪判決を獲得したとのことです。これはすごいです。私は35年で2件のみです。
いま、九弁連理事長をつとめている大分の徳田靖之弁護士の話は、感動的、の一語に尽きます。
弁護士の原点は、コソ泥やシャブ中、常習的な覚せい剤使用者などの弁護人だと考えている。正義とか社会的な常識で弁護人が被告人(被疑者)を見たら、およそ彼らは浮かばれない。わずかに残っている、もがきながらも本当は真っ当に生きたいという気持ちの行きどころはない。弁護人こそ、社会の「ゴミ」と言われることの多いこそ泥やシャブ中の最後の付添人であるべきだ。
徳田弁護士は薬害エイズ裁判を担当して、患者の家を1軒1軒、全部訪問してまわった。そしてハンセン病裁判では、被害救済ではなく、被害回復を求めた。裁判は、原告本人が主人公であるようなものにしなければならない。この提唱は、口で言うのは簡単ですが、実際にやってみると、大変な困難を伴うものです。嘘だと思ったら、ぜひ、やってみてください。
馬奈木昭雄弁護士はマスコミの活用について、なるほどと思わせることを次のように提唱しています。
テレビカメラがどこに向くかを予め考えて、その場所にいるようにしている。マスコミに弁護士はもっと出るべきだ。世論に訴えようというときにはマスコミに正しく報道してもらう必要がある。だから、報道してもらえるときにその場を設定するのは、弁護士にとって義務なのである。なーるほど、ですね。
上田國廣弁護士は、裁判は法廷だけが戦場ではない。法廷外こそ主戦場であると考えて、厚労省前で一生懸命にビラを配ったりした。たすきを掛け、演説もした。そして、被疑者との接見交通権を確立するために、自らが原告となり、多くの弁護士に支えられながら裁判闘争に取り組んで、画期的な勝訴判決を得た。
春山九州男弁護士は、市民の中での法律相談センターの展開の意義をじゅんじゅんと語ります。今では、天神センターがすっかり定着し、発展しているわけですが、その創設にあたっての苦労については、前田豊弁護士も語っています。
法律事務所の10倍活性化する法について語っているのは永尾廣久弁護士です。どうやって弁護士は新鮮なやる気を持続させているのか、その工夫の数々が紹介されています。
同じ工夫という点では、裁判所周辺ではなく、郊外の二日市に事務所を構えた稲村晴夫弁護士の話も大変興味深いものがあります。一人事務所から、今や弁護士7人の大事務所に発展しているのですから、本当にたいしたものです。弱小辺境事務所交流会というのが紹介されています。30年来続いている小さな法律事務所の弁護士と事務員の交流会です。今では参加者は100人をこえていますので、あまり弱小でもありません。今年は筑豊で開かれ、嘉穂劇場での全国座長大会を観劇しました。
10月に発刊されたばかりのこの本を大分で開かれた九弁連大会で販売しました。幸いにも131冊を売ることができました。本を売るには、マスコミの力を借りるか、自分で現物を持ってまわるしかありません。このときには「キャッチセールスではないか」という非難を浴びながら、春山九州男・前田豊・野田部哲也、そして永尾廣久弁護士たちが福岡県弁護士会の女性職員二人(池尻さんと河野さん)の協力を得て販売につとめたのでした。押し売りと感じた方には、お詫びします。といっても、大会の最中に読了したという弁護士が何人もいて、「面白かったよ」と声をかけていただきました。いえ、本当に誰が読んでも面白いし、新人弁護士ならずとも役に立つ本なのです。ぜひ、あなたも読んでみてください、福岡県弁護士会に直接注文すると、特価1500円で買えるはずです。
(2008年10月刊。1700円+税)