弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2008年10月20日

出星前夜

江戸時代

著者:飯嶋 和一、 発行:小学館

 島原の乱をテーマとする本は私もかなり読んだつもりですが、この本は出色の出来ばえです。 みなさんじっくり腰を落ち着けて読むことをおすすめします。540頁の大部な本ですし、中身がぎっしり詰まっていますので、速読を旨とする私もさすがに読了するのに3日かかっていまいました。次の展開がどうなるのか知りたくて、法廷のちょっとした待ち時間にもカバンから取り出して読んでいたほどです。
 島原の乱は宗教戦争という側面はたしかにあるけれど、その本質は苛政に対して民衆が決起した一揆であるという視点から、当時の農民の置かれた状況が生々しく語られています。
 ただ、最近の研究では、いわゆる百姓一揆は飢餓という極限状態にまで追いやられた農民たちが、死を賭して決起したというのは必ずしも正しくなく、自分たちの既得権益を守り、人間としての尊厳をかけて起ち上がったという側面も大きいと指摘されています。食うや食わずに陥った人には、もはや戦いに立ち上がる元気もないし、ましてや組織だって動くことは無理だ。一揆はかなり組織的で統制がよく取れていたというのです。
 百姓一揆の決起を促す文章には、飢餓状態について、かなりの誇張があるという指摘もあるのです。日本人の知的レベルの高さを忘れてはいけないという点は、私も大事な点だと思います。島原半島では、いったいどうだったのでしょうか。この本には、島原の乱の首謀者の中に、秀吉の朝鮮出兵で中国(明)軍と死闘を繰り広げた経験を持つ元武士もいたこと、熊本(肥後)の旧加藤家の武士などキリシタンでない者も多数含まれていたことが紹介されています。
 幕府側の討伐軍として出征した柳川・立花藩や久留米・有馬藩の兵士たちの不甲斐ない戦闘ぶりが描写されていますが、これって本当なのでしょうか。
 甘木には、島原の乱へ参戦するときの行列を描いた詳細な絵があると聞いていますが、私はまだ見ていません。ぜひ見たいものです。
 この著者の『神無き月十番目の夜』という本を読んだとき、私はしびれる思いでした。ええっ、ここまで臨場感あふれ、迫真の時代小説が書けるのか、と感嘆し、当時、周囲の誰彼となくすすめたものでした。同じ著者ですから、その思いが再びよみがえってきました。じっくり読むに値する本です。
 秋の夜長に満月が出ているのを見ると、つい南フランスの夏を思い出します。外のテラスで月を眺めながら、食事をゆっくり楽しみました。前にも書きましたが、なぜか蚊もおらず、虫も飛んでこないので、静かに食事ができるのです、目下、写真集を作っているところです。ブログでお見せできないのが残念です。カメラはアナログ(フィルム)とデジタルと両方持って出かけることにしています。
(2008年8月刊。2000円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー