弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2008年10月13日

タンクバトル

ドイツ

著者:斎木 伸生、 発行:光人社

 第二次世界大戦のとき、ナチス・ドイツ軍とソ連軍とのあいだで戦われたクルスク大戦車戦というものに関心があったので読みました。この本のオビには、「独ソ戦車戦のクライマックス」と書かれています。ドイツのティーガー戦車が「活躍」するわけですが、実際には戦局を転換するほどのものではなかったようです。ソ連のT34戦車が次々に撃破されてしまうのが哀れです。祖国を守るため死を恐れず勇敢にドイツ大型戦車に突撃していくソ連軍戦車の勇士を褒め称えたくなります。
 図と絵と写真入りで、要領よく個々の戦闘経過がまとめられています。深い分析はなされていませんが、非情な戦車戦の実情が伝わってくる本です。
 10月初めに富山で行われた人権擁護大会で、米田さんという新聞記者が、防衛白書に「脅威」という言葉はなくなっていると指摘していたのにハッとさせられました。それに代わる言葉として、「不安定要因」と書かれているそうです。軍隊は「敵」の存在を不可欠とするものです。「敵の脅威」があるからこそ、軍備を強化する必要があるということになるわけですが、なんとそれがないというわけです。
 では一体、防衛省そして自衛隊は何のために存在しているのでしょうか。米田さんは、自衛隊を海外にも派遣できる災害救助隊とすること、そして、現在、国内各地にある基地を整理統合し、5兆円にのぼる軍事費を削減して他に回したら良いという趣旨の提起もされ、なるほどと思ったことです。
 さらに、「脅威」がないという点で、日本に「攻め込む」可能性がある国として、ロシア、中国、北朝鮮がよくあげられるけれど、ロシアと中国については、その能力はあるけれど、意思が全く認められない。北朝鮮には能力も意思もないとキッパリ断言されたことがとても印象的でした。
 むしろ、アメリカは、中国を潜在的脅威と見ていること、また、台湾を手放すつもりがないことから来る紛争の可能性がないわけではなく、そのとき、日本がアメリカと一体となると中国が見ていること、つまり、中国にとって日本こそ脅威になっていると見られていることの重大性の指摘もあり、考えさせられたことでした。
 イラクのサマワに派遣された自衛隊の旭川師団が、イラクから帰還したあと、旭川の町で集団暴行事件を起こしたそうです。それまでは市民を守るべき存在として教育が徹底してなされてきた。ところが、イラクに行ってそのタガが外れてしまったようだ、というのです。
 イラクでオレたちは生命をかけて国を守るために苦労してきた。それなのにおまえらは平和な日本でぬくぬく、のほほんとして、許せない…。血がたぎったまま平和な日本に帰国してきた隊員の、そんな鬱憤が集団暴行事件に繋がったようです。怖い話です。 
(2008年9月刊。2300円+税)

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