弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2008年10月12日

神様の愛したマジシャン

社会

著者:小石 至誠、 発行:徳間書店

 著者はプロのマジシャンだそうです。有名なマジシャンのようですが、私はテレビを見ませんので、全然聞いたこともありませんでした。でも、この本はプロの小説家が書いたように、よくできていました。しっとり、じっくり味わうことのできる本でした。ついでに、マジックの種明かしもほんの少しだけなされています。だから、余計に面白いのです。だって、種明かしもしてほしいでしょ。
 マジシャンは、マジシャンを演じる役者でなければならない。つまり、テクニックを身に着けるだけではなく、マジシャンの醸し出す雰囲気を表現しなければならないということ。
 マジックの世界には、有名なサーストンの原則がある。種を明かさない。同じ現象を続けない。これから起きる現象を先に言わない。
 マジックには、不思議を感じさせる現象という表の部分と、決して見せてはならないネタという裏の部分がある。この、ネタという裏の部分と表の現象とが必ずしもイコールで結ばれてはいない。
 プロのマジシャンの場合、理解しにくいというか、決して見せてはいけない裏の技術部分より、より派手な現象を見せるということの方が重要であるに決まっている。
 実は、見ている観客には面白かったり楽しかったりするマジックこそ、演じているマジシャンにとっては大変厄介なものが多い。
 発表会のときのルール。もし演技中にマジックのタネがあからさまになったときには、照明をカットして暗転にする。
 チャイナ・リングはたった一本の指先に隠れるほど小さな切れ目がリングの一箇所にある。その切れ目はリングを持った指先に隠されていて、決して観客の目に触れることはない。
 「美女の胴切り」のタネ明かし。実は、箱の半分に全身を収めてしまう。周囲が黒く塗られていて、そんな大きな箱には見えないけれど、実際には、かなりのスペースが作られている。
 うむむ、私も、この3月にハウステンボスのマジック・ショーを見ました。そのときはあの図体のでかい、ゆっくりした動きしかしないはずのゾウが、たしかに一瞬のうちに消えてしまったのでした。
 大掛かりの箱物マジックショーには、百万円単位のお金が届いていた。出演料はわずか2000円だったころのことである。
 マジシャンは楽天的でないと務まらない。
 ハトを防止から飛び出させる芸を披露する人は、ハトを何十羽も自宅で飼育している。自宅に特別な部屋を作り、餌を入れたギールを置いておく。ずっとハトを訓練していると、舞台でも街灯を目指して飛んでいく。
 プロのマジシャンは、日本に300人以上はいる。
 自慢の技術を評価されてはいけないのが、マジシャンという職業である。
 マジックの特許なんて、まるでないのが実情だ。マジックの道具の値段とは、ほとんどトリックのアイデア料である。
東京でマジック・ショーを売り物にしているスナックというかクラブにいったことがあります。舞台でマジックが演じられるのではなくて、テーブルに回ってくるのです。いわゆる手品です。万札が次々に出てくるマジックには、みんな感嘆しました。お金を手に入れるのがこんなに簡単なら、誰だって、いつでもするよね、そんな感想が湧き上がってきました。 
(2008年6月刊。1300円+税)

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