弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2008年10月 9日

最後の授業

アメリカ

著者:ランディ・パウシュ、 発行:ランダムハウス講談社

 ドーデーの『最後の授業』ではありません。46歳の教授がすい臓がんで余命いくばくもないと宣告され、カーネギーメロン大学で最後の授業を行ったのです。
 いやあ、すごいですよ。自分の生命があとわずかだと告知されたとき、あなたなら、何をしますか?
私も父を癌で亡くしましたので、癌という病気についてはすごく関心があります。そして、癌の告知については、してほしい反面、怖さに耐えられるだろうかという不安があります。
それにしても、あなたの生命はあとわずか数ヶ月だと宣告されたら、どうするでしょうか。
 最近、私の大学時代のセツルメント仲間から、亡きご主人の追悼集(『一途に進む私の道』)が贈られてきました。私も近くに住んだことのある神奈川県川崎市の法政二高の英語の教師だった人(故橋本保氏)についての追悼集です。それによると、2月に「夏まで」と家族は告知されたそうです。癌が再発・転移したわけですが、本人はそのこと自体は知っていても、どうやら「あと何ヶ月」というのは知らされなかったようです。知ったところで、既に入院中の身であれば自由に行動できるわけでもありませんので、どうしようもなかったのでしょう……。緩和ケアー病棟での生活をご本人が報告しているのを読むと、大変に意思の強い人だと感嘆してしまいました。私なんか、いったいどうするだろうと思いながら、追悼集を読み進めました。
 さて、この本に戻りますが、最終講義は無事に終了し、これがインターネットでも配信され、のべ600万ものアクセスがあったそうです。私は戦争好きのアメリカなんて大嫌いなのですが、こんなアメリカは大好きです。アメリカの草の根民主主義は今の日本国憲法にも生きていると思っています。アクセスした「600万人」は、そんな草の根民主主義を体現していると勝手に思い込んでいるのです。
 大切なのは完璧な答えではない。限られた中で最善の努力をすることだ。
 うーん、これって、なかなかいい言葉ですよね。
 今回の講義がなぜ大切なのか考え直した。生きていると自分も確認したいし、みんなにも分かってほしいから? まだ講義をする元気があることを証明するため? 自分の最期を見てほしいという目立ちたがり屋の精神? この答えは、すべてイエスだ。傷を負ったライオンはまだ吼えられるかどうかを確かめたいものだ。これは威厳と自尊心の問題だ。虚栄心とは少しだけ違うんだ。だから、僕の講義は死ぬことについてではなく、生きることについてでなくてはならなかった。な、なーるほど、ですね。最後の最後まで、自分の存在というのを世の中に認めてほしいものです。
 子供はなによりも、自分が親に愛されていることを知っていなくてはならない。
 ホント、そうなんですよね。
 幼い子供たちと、やがて悲しい別れがやってくる。そして、彼らには父親の記憶が残らない。これほどつらいことがあるでしょうか・・・。ここを読んでいるうちに、ついつい涙してしまいました。 著者はお元気のようです。ぜひ、これからもお元気にお過ごしください。
 世界遺産に登録された白川・五箇山のうち、五箇山のほうへ行ってきました。気持ちよく晴れ上がった秋の日の朝のことです。大きな萱葺きの家がよく保存されていました。そこで生活する人にとってはかなり不便を多いことでしょうが、やはり、こういう風景はぜひ攻勢まで伝えたいと思ったことでした。稲穂が重く垂れたそばで、コスモスが咲いていました。チューリップのような淡いピンクの花が珍しかったのですが、名前が分かりませんでした。あとで、ぺシニアという花だと教えられました。大きな村上邸では、火の起きている囲炉裏のそばでお年寄りが語り部として故事来歴を語ってくれ、また、ササラを演じて見事なコキリコ節を聞かせてくれました。
 川向こうに流刑小屋が唯一つ残っているというので、見学してきました。独房です。これでは冬の寒さに耐えられません。富山は加賀百万石の一部になっていたそうです。
(2008年6月刊。1500円+税)

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