弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2008年10月 2日
済洲島四・三事件
朝鮮(韓国)
著者:文 京洙、 発行:平凡社
1948年というのは、団塊世代である私の生まれた年です。その4月3日未明、済洲島で武装蜂起が起きました。その規模は300人。重火器は日本製九九式銃など、旧式のものが20挺ほどで、残る大半は竹槍とか斧・鎌の類を所持するだけ。この小さな抗議行動が、その後130あまりの村を焼き、全島人口28万人のうちの3万人もの島民が犠牲となる凄惨な殺戮劇のきっかけとなった。四・三事件というのは、歴史上記憶されていい、悲しい出来事だと思います。
60年経った2007年6月、済洲島はユネスコの世界自然遺産として登録された。
四・三事件は、1980年代まで韓国の歴代政権の下で闇に封印され、これをまともに語ることは久しくタブーとされた。2000年1月に四・三特別法が制定され、ようやく問題解決の糸口が見出された。
済洲島には白頭山に次ぐ朝鮮半島第二の高峰であるハルラ山(1950m)がそびえている。冬ともなれば、厚い雪に埋もれ、その険しさは人を寄せ付けない。
戦前の済洲島での抗日運動で見逃すことのできない特徴の一つは、日本、とりわけ大阪の左翼運動との関係が深かったこと。
終戦後、信託統治反対(反託)の運動は、すねに傷持つ親日派が民族独立の大義を持って政治的に復権する格好のチャンスを与えた。そして、当初、反託の立場を示した左派は、共産党指導部(朴 憲永)の平壌への秘密訪問(1945年12月28日)のあと、信託統治支持(賛託)にまわり、信託統治への賛否は、そのまま韓国における国論の左右分裂となって、解放後の朝鮮を引き裂いた。
済洲島の島民の多くが、日本など島外の近代世界の生活体験を持ち、教育水準や政治意識も高く、抵抗と自立にまつわる記憶の共有を背景に自律への気構えが旺盛だった。
済洲島の共産党組織が結成されたのは1945年10月のこと。210人ほどのメンバーだった。しかし、独自の組織活動はほとんどなく、済洲島の左派勢力は人民委員会の一員として活動し、左派の中央での路線は済洲島にはスムーズに伝わっていなかった。
ところが、1945年11月にソウルで南労党が作られ、済洲島でも南労党島委員会として衣替えしたころから変わり始めた。
1947年の三・一節事件から四・三事件勃発までの1年余りの逮捕者は2500人に上った。左翼・同調者と見られると検挙・テロにさらされ、職場からも追い出された。だから、夏ごろから若者たちが続々とハルラ山に入山しはじめた。そこは絶好の避難場所だった。
軍政警察・右翼の攻勢が厳しさを増せば増すほど、南労党内では古参の社会主義者を中心とする穏健派がしりぞき、復讐心や敵愾心に燃える急進的な若手指導者の発言力が高まっていった。武装蜂起の決断も、若い強硬派の主導で下された。4月3日の蜂起は、追い詰められた左翼の自衛的かつ限定的な反抗・報復としての性格を帯びていた。
しかし、四・三の武装蜂起は、アメリカ軍政が全力で推進しようとしていた5・10選挙に対する重大な挑戦と映った。4月5日、済洲島非常警備司令部が設置された。
6月10日、ディーン軍政長官は、済洲島での選挙の無期延期を発表した。このようにして、済洲島は大韓民国の建国に向けた5・10単独選挙を全国で唯一拒んだ島となった。
済洲島で犠牲となった1万4000人あまりのうち、軍警討伐隊による殺害が80%近い。しかし、武装隊による犠牲も13%はあった。武装隊と討伐隊の双方からの攻撃と報復の悪循環で、多くの住民が犠牲となった。
四・三事件のあと、済洲島は与党の大票田となった。1956年の大統領選挙では投票率95%、そして李承晩の得票率は88%だった。全国平均より18%も高い。済洲島の若者は、「反共の戦士」に徹するしか、「暴徒」「アカ」という汚名を拭い去ることができなかった。
私はまだ済洲島に行ったことがありません。すごく重い歴史を持った島だと思います。
(2008年4月刊。2400円+税)
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