弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2008年9月13日

フランスに学ぶ国家ブランド

世界(フランス)

著者:平林 博、 発行:朝日新書

 フランスは超大国ではない。核保有国であり、国連の安全保障理事会の常任理事国であるが、経済規模や人工などの観点からすると、中規模国家である。面積を除いて、日本の方が経済力などで上まわる。しかし、フランスには独特の国家ブランドがある。フランスには、独自の「国のかたち」があり、強い発信力がある。
 そうなんですよね。まるで下駄の雪みたいに、踏まれてもバカにされてもひたすらアメリカの言いなりになる日本とはまったく違って、フランスは独自路線を少しでも強調しようとします。もっとも、今のサルコジ大統領は露骨な親米政策を打ち出していますが…。
 サルコジはかつてトヨタ自動車がフランスに進出するに当たって、弁護士としてアドバイスしたことがあり、トヨタの招待で日本にも一度来ている。サルコジの父はハンガリー貴族であり、ソ連赤軍から逃れてフランスに亡命した。母はギリシャ出身のユダヤ人。サルコジはパリ大学は卒業したが、グランゼコール(シアンス・ポ)に入ったものの卒業はしていない。フランスのグランゼコールというのはエリート中のエリートを輩出する大学です。
 フランスは欧州諸国の中でもっともユダヤ人が多い。60万人いる。フランスを旅行すると、町並みを出た途端、豊かな田園風景が広がる。
 フランスは穀物、乳製品、ワインなどの生産量は自国民の消費量を上まわる。果物や野菜も十分に生産しているが、輸入もしている。カロリー・ベースで計算したフランスの食糧自給率は122%(2003年)。フランスより自給率が高いのは、オーストラリア(237%)、カナダ(145%)、アメリカ(128%)である。
 フランス人は食料の安全保障を当然に必要なことと考えている。
 そうなんです。そこが日本と決定的に違います。日本人は、政府の間違った食糧政策を盲信させられています。食べ物は、お金さえあれば好きなように買えると思いこまされています。でも、そんなことは決してないのです。食料と水は、今や世界を制覇する道具と化しているのです。少なくとも、食糧自給率の向上に今すぐ日本政府は真剣に取り組むべきです。だって、日本の食糧自給率は、せいぜい40%しかないのですよ…。
 フランスの就業人口の4分の1は公務員か国営企業に勤める準公務員である。
 今の日本では、公務員を一人でも減らしたらその政治家の大手柄になります。一方では政治家の口利きと称して子弟を公務員として送り込んできたわけですが、目下、そのことが最大争点の一つとなりつつあります。
 また、フランスでは、いくつかの宗教系の私立学校を除いて、学校はすべて公立ないし国立である。入学金も授業料もごくわずか。北欧となると、そのいずれもタダだそうです。
 ニースから電車に乗って、カーニュシュルメールというところに行きました。駅前に無料のシャトルバスがあるとガイドブックに書いてありましたが、見あたりません。駅から歩いてルノワール美術館を目指しました。強い陽射しを浴びながら坂道をのぼっていったのです。ちょうど昼前のことでした。なんと、午後2時まで昼休みだというのです。汗が一度に噴き出してきました。仕方がありません。もう一つの目的地である古城にまわり、一休みしたあと、再びルノワール美術館に出かけました。オリーブの木が植えられている広大な丘にルノワールが晩年を過ごした建物が残っていました。ルノワールの絵って、本当にいいですよね。見ていると、気持ちがほんわか、ゆったりしてきます。暑いなか苦労してたどり着いた甲斐はありました。
(2008年5月刊。740円+税)

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