弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2008年8月29日
ユダヤ人 最後の楽園
ドイツ
著者:大澤武男、出版社:講談社現代新書
ワイマール共和国について、具体的なイメージをもつことができる本でした。ユダヤ人とされる当の本人は、非常にしばしば、あるいはほとんど、自分がユダヤ人だという意識をもっていなかった。ところが、常に周囲からユダヤ人として見られていることを意識することによって、自分がユダヤ人であることを意識するようになっていく。
うへーっ、そうなんですか・・・。はじめからユダヤ人意識がギラギラしているというのではないのですね。
ゲットーに閉じこめられていたユダヤ人を次々に解放していったのは、ナポレオンだった。帝位についたナポレオンは征服した各地のユダヤ人を解放し、後の近代市民法に多大の影響をもたらした。ところが、ナポレオンの失脚とともに、ナポレオン法典によってユダヤ人に付与された居住・結婚の自由などが再び制限されていった。
早くから人権思想に目ざめていたユダヤ人エリートは、いち早くキリスト教社会に同化し、一日も早くドイツ市民になりきろうとした。詩人ハインリッヒ・ハイネも、その一人だった。メンデルスゾーンも、洗礼を受けてキリスト教徒としての体裁をととのえて、ドイツ社会に溶けこもうとした。
19世紀ドイツで、進取的ユダヤ人3万人が洗礼を受けた。しかし、結局は改宗ユダヤ人だ。ユダヤ人には変わりないと見なされた。19世紀後半の金融都市フランクフルトの銀行業の85%がユダヤ人の経営によるもので、ナチスが政権をとった1933年時点で、全ドイツのデパートの80%がユダヤ人の所有だった。1900年ころのドイツの都市のユダヤ人は、平均してキリスト教市民の4〜7倍の納税者となっていた。
経済的に独立したユダヤ人は過去の劣等意識を克服しようと、子弟の教育に多大の投資をした。その結果、若い世代から次々にエリートが育っていった。ただし、ユダヤ人は国家の政治・官僚・軍事機構には入りこめなかったため、一匹狼として立身出世でき、しかも社会で高く評価される経営者、医師、弁護士、芸術家、ジャーナリストの分野にすさまじい進出をみせた。な、なーるほど、そういうことだったのですね。
第一次大戦のとき、ドイツのユダヤ人はその2割、10万人が祖国ドイツのために戦った。このころドイツ最大の経営者になったワァルター・ラーテナウは、AEGグループ 130社の経営者であった。
ベルサイユ条約の下でドイツ国民の不満と怒りが充満していたとき、ドイツ史上かつてないほどユダヤ人の進出が目立った。そして、きわめて保守的なバイエルンの首相に、ユダヤ人社会主義者クルト・アイスナーが就任した。ところが、1919年に右翼軍人に暗殺された。
ロシア革命も、ユダヤ人トロツキーのやったことという受けとめ方がなされた。つまり、革命すなわちユダヤ人と理解されたわけだ。
ワイマール共和国の憲法を起案したのもユダヤ人のプロイスだった。その結果、「ドイツの実情にあわないワイマール憲法」がユダヤ人によってつくられた。そんな批判が高まった。このように、ユダヤ人は、いつも集団的、団体的な責任を問われてきた。
ワイマール期のドイツで学問・文化をリードしたのは、ユダヤ人エリートだった。アインシュタインもワイマール共和国時代にノーベル賞を受けた(1921年)。
ドイツの人口のわずか1%にすぎないユダヤ人が大活躍していた時代はワイマール時代をおいてほかにない。
毒ガス兵器やマイクを開発した主要な人物もまた、みなユダヤ人だった。
そして、ジャーナリストの多くがユダヤ人だった。反ユダヤ傾向の高まりのなかでユダヤ人が右翼に属するのは不可能だった。そして、そのことが右翼や国粋主義者をさらに怒らせた。
カフカもフロイトも、この時代のドイツ・ユダヤ人である。ノーベル賞を受賞したドイツ人の3割はユダヤ人だった。
ユダヤ人はもともと人並みでしかない。しかし、エリート層は認められるために精進し、自己顕示欲のたえざる継続が、結果としてノーベル賞受賞につながった。ふむふむ、なーるほど、そういうことなんですね。ユダヤ人について少し理解を深めました。
(2008年4月刊。700円+税)
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