弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2008年8月 4日

「情熱のシェフ」

世界(フランス)

著者:神山典士、出版社:講談社
 福岡出身のシェフがフランスでミシュランの星を獲得しました。それも、わずか28歳とは、恐るべきことです。この本は、その若きオーナー・シェフである松嶋啓介の足どりを丹念に追いかけています。いやあ、プロの料理人(シェフ)というのは、すごいものです。一度は、ぜひとも味わってみたいものです。
 この本の人物紹介を紹介します。
 1977年に福岡県で生まれる。高校を卒業したあと、上京し、料理学校「エコール辻東京」に学ぶ。渋谷「ヴァンセーヌ」などで働いたあと、20歳でフランスへ渡る。フランス国内で修業を重ね、南仏ニースに2002年12月、25歳のとき自分の店
「Kei’s Passion」をオープン。素材の魅力を存分に生かした斬新な料理が話題を呼び、3年後の2006年、28歳でミシュラン一つ星を獲得した。
 その後、店を拡張し、「KEISUKE MATSUSHIMA」に改めた。近く東京にも進出する。
 ケイは、食材の組み合わせは基本的なものであっても、完成したときに意外性を出す。料理はエンタテイメントなのだから、「驚き」は大切な要素だ。
 まずは食材・素材ありき。食材に対する感動こそ、料理人に対する最大の賛辞となる。料理人は、ある意味で、生産者の通訳である。
 ケイは味覚を複雑にせず、食材の良さを前面に出すような作品を心がける。その代わり、シンプルな料理は味覚の組み立てが完璧でなければいけない。
 ケイにとって料理をつくるのも楽しいことだが、一番うれしいのはフロアーに出て客から「メルシー」と言われた瞬間だ。料理は、自分のためではなく、人に喜んでもらうためにこそある。
 ケイの父は福岡市城南区に住む団塊世代の営業マン。祖父は太宰府に住む。1000坪の農地でニワトリを飼っていた。
 ケイは子どものころ、やんちゃの一言に尽きる悪さ坊主だった。ただし、味覚の良さは抜群だったし、母親はいつも手づくりの料理で、冷凍食品はめったにつかわなかった。
 ケイは東京で調理師学校に通うかたわら、東京の有名レストランを見てまわった。
 ニースのレストランが居抜きで1000万円に売りに出されるのを買ったのです。すごい決断ですね。24歳のときです。25歳の誕生日に店はオープンしました。20歳でフランスに渡って、わずか4年でフランスで店を構えるというのですから、その実行力と決断力は常識はずれのものがあります。
 しかも、開店して3日目には22席が満席になったというのです。
 今や、夏に月商13万ユーロ(2100万円)、冬でも10万ユーロ(1600万円)。1日の売上が平均4000ユーロです。店は150平方メートル(45坪)です。フロアと調理場をあわせて17人。うち日本人が6人(19万円の給与)、フランス人11人。平均年齢は、なんと22.6歳。最年少は15歳。調理場にも16歳2人、17歳、19歳がいる。ニースの料理学校から実習に来ている少年少女たち。
 ところが、スタッフの確保と養成は大変なようです。
 毎朝、市場にまで買い出しに行って、そこで生産者と顔を合わせながら、食材を自分の目で選び、その食材に合わせて料理を考えるというケイのスタイルに大いに魅かれるものがありました。これからも大いに活躍してほしい日本人、いえ福岡県人です。
(2008年6月刊。1700円+税)

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