弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2008年6月24日
団塊の世代とは何か
社会
著者:佐伯啓思、出版社:講談社
一億総評論家という言葉は、団塊の世代を論じるのにぴったりだ。かつて「怒れる青年」であった団塊の世代が「物言わぬ中年」となって久しい。団塊の世代が、いま一度、覚醒して「怒れる老年」となるのか否か、注目を集めている。
団塊の世代とは、昔はともかく、いまは元気がないという印象が強い。
団塊の世代はリーダーを出していない。政治家にしろ、経済人にしろ、文学者やジャーナリストにせよ、何人かの例外はいても、全体的に元気がなく、しょぼくれている。
いやあ、こう言われると、実際そのとおりなんですよね、と、頭をかいて下を向くしかありません。団塊世代に引退気分がみちみちているからです。
そして、団塊の世代の子どもたちが暴れ出した。学級崩壊や校内暴力が生じ、ファミコン・ゲームやケータイが登場するなかで、団塊ジュニアが想定外の犯罪を頻発させ、団塊の世代は深い失望感、思いどおりにいかないという気持ちを募らせ、やる気をなくし、虚脱感に陥った。うむむ、な、なるほど。しばし、声も出ません。でも、しかし・・・。
団塊の世代は非常に中途半端である。団塊の世代には親の権威主義的な考えが残った。しかし、自分たちが擁護できるような強い価値観をつくり出すのには失敗した。団塊の世代の記憶のなかには、戦後まもなくの貧しさと、貧困の中での人々の絆(きずな)や友情といった価値感覚がある。しかし、それを大きな社会的・世代的価値として打ち出せなかった。そこに戸惑いが生じている。
団塊の世代の父親世代は、戦争のため、出生人口の半分しか40歳を迎えることができなかった。ところが、団塊の世代はそれ以前の世代と比べて、出生数が多いだけでなく、その後の生存率も高い。
団塊の世代は人数の割には国会議員が少ない、とは言えない。しかし、人数の割には、とくに自民党で質が乏しい。いやあ、これって革新政党についても言えることですよね。
団塊の世代が、年金という既得権をもちつつ、自分たちの世代の人数の多さを政治的動員によって政治力に変換し、あらゆる改革に抵抗する一大勢力が生まれたら、日本の将来は暗いものになる。
いえいえ、これは悪意ある見方ですよ。小泉流のエセ「改革」を手放しで礼賛する立場による、ためにする非難だと思います。
教養主義が生きていた時代に青年期をおくった団塊の世代は、本を読みたがる。本に価値があると信じている文化の最後に近いグループとして過ごしたからだ。団塊の世代には、書き物への愛着が残っている。何でもいいから読んでいたほうが気が休まるという癖がついている。
団塊の世代の自画像として、次のように言える。
智に働いた末に無用の人。時代に棹(さお)差して流された。通す意地など、もとよりない。なのに、本人は無用とも流されたとも思わず、通すべき意思を通した結果だと信じたがる。
これって、夏目漱石の『草枕』の言葉のもじりですね。
団塊の世代の家族の特徴を一言でいうと、前の世代に比べて、豊かでない家族の中で育ち、豊かな家族生活にあこがれ、それをつくり出したが、子どもへのバトンタッチには失敗した世代。
団塊の世代は、もう少し自らの存在を顕在化して世の中の数字を動かさないと、やはりただの年寄りとして、あるいは社会的な粗大ごみとして、朽ち果てていくのを待たれるだけになりかねない。
私は、この残間里江子の指摘にまったく同感です。今こそ団塊の世代は声をあげ、行動に移すべきときです。後期高齢者医療制度が団塊世代をターゲットにしていて、おまえら早く世の中から退場しろなどという策動を絶対に許してはいけません。ソバ打ち、陶芸、オヤジバンドもいいけれど、ひっそり小さくなっていてはダメなのです。
統計によると、団塊の世代に自殺と殺人と失踪が多いのです。3人の男性が東京で一斉に自殺したという事件がありました。女性だったら、そんなことはしなかっただろうと指摘されています。
でも黙って死んでいったら、それを高笑いする人間を喜ばせるだけです。なにくそ生き抜いてやるぞ。それこそ、憎まれっ子、世にはばかる。お互い、これでいきたいものです。
団塊世代の大学生時代の息吹を感じるには、何回も紹介していますが『清冽の炎』(花伝社。第1〜4巻)をおすすめします。これを読んで熱き青春の血を思い出しましょう。
(2008年4月刊。1600円+税)
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