弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2008年6月20日

銀座のプロは世界一

社会

著者:佐藤靖貴、出版社:日本経済新聞出版
 弁護士会の役員をしたとき、東京・銀座の周辺に少しだけ出没しました。私にはちょっと縁遠い世界だと実感したものです。なにしろ、どこもびっくりするほどの値段です。最近、日比谷公園近くの一等地にオープンした超高級ホテルは一泊30万円が中クラスの部屋だというのです。世の中には、お金のありあまっている人が厭になるほど多いのですね。
 レストラン(パーラー)のウェイターの心得。壁を背にして待機するときには、両手の指2本を後ろの壁に付けておく。お呼びがかかったら、指で身体を押し出すようにして前に出る。こうすると、颯爽と見える。
 ふむふむ、なるほど、ですね。ウェイターにはキビキビした動作が求められますよね。
 文明堂に『天下文明バームクーヘン』というお菓子があるそうです。700グラム一本で定価5000円もします。1日に18本のみ。週に36本。7等分するので、252個できる。基本的に受注オーダー制。入手しうる最高級の原材料を吟味し、バターは発酵バターをつかって極上のコクを醸し出す。それを職人の舌と勘とでタネを練りあげる。完全な手作業である。
 洋食屋のシェフの話も含蓄があります。
 料理人修業は初めが肝腎だ。初めに本物の味を覚えないと、一流のシェフにはなれない。「本物でない味」を先に身をつけてしまうと、後になって本物の味をつくることはできない。洋食屋の味は、コンソメとデミグラスソースの2つ。デミグラスソースは、牛スジ肉と野菜をとろけるまで煮込んで、それを漉す。そこに、また野菜を炒めて入れて煮込んで漉す。野菜をたっぷり入れると、味がさっぱりする。野菜が少ないと、コラーゲンの煮込みのようになって、くどくなる。9リットルのデミグラソースをつくるのに、牛スジ肉 20キロ、玉ネギ12.5キロをつかう。最終的には、新しくつくったデミグラスソースを前からあるソースにブレンドして、味を均一にする。
 厨房では、いつでも神経を研ぎ澄ませておかなくてはいけない。味は集中して一回でぱっと覚えるもの。漫然と何回も味見をしていても分からない。一発勝負。毎日が、その繰り返し。いやあ、そうなんですか。だから、私なんか味音痴のままなんですね。残念です。
 銀座のレストランに野菜を供給している農家の主も登場します。そこで出来る野菜は造作が大きい。時間をかけ、化学肥料をつかわないで育てるから。農薬はなるべくつかわない。よもぎを大鍋で煮たエキスをつかったりする。これは虫が嫌いな匂いなのである。トマトには、ウイスキーを1000倍に薄めたものをかけてみた。
 銀座の美容室には、顔剃り名人までいます。世界一の剃刀でうぶ毛まで優しく剃ってくれるのです。
 毎日、欠かさず研ぐ剃り刀は20年はつかえる。剃刀の上に髪の毛を載せて軽く息を引きかけたら髪は真っ二つに切れて落ちた。この剃刀の材質は、鋼と地金。
 ほかにも、ものづくり、接客・サービス業など、たくさんの名人が登場します。さすがに日本は職人芸を大切にする国です。これって、いいことですよね。
(2008年3月刊。1700円+税)

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