弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2008年6月11日

活憲の時代

社会

著者:伊藤千尋、出版社:シネ・フロント社
 私とほとんど同世代の朝日新聞記者です。いやあ、よくがんばっていますね。『反米大陸』(集英社新書)、『太陽の汗、月の涙』(すずさわ書店)など、たくさんの著書があります。私も何冊か読みましたが、著者の鋭い感性と言葉の豊かさには、いつも感嘆し、魅きつけられます。
 この本は、著者の講演を活字にしたものですので、とても読みやすい内容となっています。著者は今なお現役の新聞記者です。記者生活30年のうち、20年間を国際報道に従事していました。ですから、世界の事情をよく知っています。なにしろ世界65ヶ国を取材したというのです。すごいですね。うらやましい限りです。
 アフリカ沖にあるカナリア諸島に日本国憲法9条の碑があるなんて、信じられない事実を知りました。1996年にあった除幕式のとき、みんなでベートーベンの第九「歓喜の歌」を合唱したというのです。9条の素晴らしさを実感できます。
 南米チリでは9.11というと、1973年のこと。当時のアジェンデ大統領に対して軍部がクーデターを起こした日のことをさす。そして、夜9時になって外出禁止時刻になると、主婦の「ナベたたき」が始まる。デモや集会に行くだけが反政府行動ではない。逮捕されるのが怖いなら、自分にできる方法でやればいい。大切なことは、心の中だけで思っているのではなく、一人一人が行動で示すこと。うむむ、なーるほど、そうなんですよね。
 著者はベネズエラで女性から「憲法を知らずに、どうやって生きていくのか」と教え、さとされたそうです。うひゃあ、そ、そうなんですか、まいりました。憲法って、私たちの生活を底辺から支えるものなんですね。
 アメリカでは、9.11のあと、反テロ愛国法なるものが制定されました。テロリスト探しの名目で、警察(FBI)が勝手気ままに電話やインターネットの盗聴を始めました。そのとき、それを拒否した警察署長もいたというのです。カリフォルニア州のパロアルトという町のことです。
 今、アメリカ社会は変わった。9.11のあと、ブッシュに団結しようというスローガンに乗った。しかし、あれはおかしかった。もう、あんなのはイヤだとアメリカ国民の多くが思っている。そうなんですね。だからこそ、オバマが有力なアメリカ大統領候補になっているのだと思います。
 中米のコスタリカでは、小学校に入って最初に習う言葉は、人はだれも愛される権利をがある、ということ。いやあ、これってすごいことですよ。うんうん、実にいい言葉です。ホント、そうなんです。誰だって、自分がされたのと同じことを他人にもしたくなるのです。ということは、自分にされたイヤなことはしたくもなるっていうことです。やっぱり、子どものときから他人(ヒト)を大切にするのが大切なんです。
 コスタリカでは、軍事費をそっくりそのまま教育費にまわした。兵士の数だけ教師をつくった。トラクターは戦車より役に立つ。兵舎はすべて博物館に変える。大賛成です。コスタリカの識字率は今や100%に近い。国民の10人に1人が教員の免状をもっている。す、すごーい。子どもたちが政治に関わるような仕組みになっているのもいいことですよ。
 コスタリカのアリアス大統領は1987年度のノーベル平和賞をもらった。日本の佐藤栄作とちがって、本当に世界平和に貢献したからだ。平和憲法をもっている国の義務は、周囲の国も平和にすること。コスタリカは平和の輸出を始めた。パチパチパチ。心から、拍手を送ります。
 南アメリカでは、1998年以来、10回の大統領選挙があった。反米左派が9勝、親米右派が1勝。反米左派が圧勝した。もうアメリカには追随したくないということ。
 1998年のベネズエラが皮切りとなった。2002年のブラジル、2003年のアルゼンチン、2005年のウルグアイ、2006年のチリ、ペルー、ボリビア、エクアドルと、反米左派政権になった。コロンビアだけがアメリカべったりの大統領だ。ただ、この国ではソ連派ゲリラがいて、アメリカ派だけで選挙したから、そうなっただけだ。
 読んでいると、なんだか思わず元気の出てくる本です。団塊世代も捨てたもんじゃありませんよ、まったく。
(2008年5月刊。999円+税)

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