弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2008年5月20日
いのちを産む
社会
著者:大野明子、出版社:学習研究社
いい本です。日本人の生命の誕生そして日本の医療制度のあり方をしみじみ考えさせてくれました。マイケル・ムーア監督の映画『シッコ』にあったような、アメリカみたいな貧乏人切り捨ての国にならないよう、日本人は一刻も早く目を覚まし、立ち上がるべきだと思います。
東京・杉並にある明日香(あすか)医院は、医師1人、助産婦数人で運営する産科診療所。もっぱら自然なお産と母乳育児を世話している。明日香医院は8年前の開業以来すでに 1500例の実践がある。明日香医院では、休日・夜間は助産師1人が勤務する。お産のときは、オンコール待機の助産師1人と医師1人の3人で世話する。
ここの分娩室に分娩台はない。赤ちゃんは、布団の上で、四つんばいや側臥位で生まれる。手術室もない。帝王切開の必要なときには、搬送する。明日香医院は、そもそも帝王切開にならないお産を目ざしている。
妊婦には、太らないこと、身体をよく動かすことを実行してもらう。1日3時間の散歩が奨励されている。お産のときには助産師が一対一で世話をする。お産後は、完全母子同室同床で、赤ちゃんが泣くたびに母親は乳首をふくませ、助産師は、つききりで世話をする。
自然な陣痛のためには努力が必要。その要点は、運動と食事が2本柱。運動は散歩。初産婦だと1日3時間、経産婦でも最低1時間はしっかり歩くこと。歩くことは、赤ちゃんにも良い効果をもたらす。からだ全体の血行が良くなり、子宮へも酸素や栄養分に富む血液がたっぷり流れ、お腹の中から元気で、陣痛にともなうストレスなどものともしない丈夫な子どもが育つ。陣痛中の散歩は、自然の陣痛促進剤である。ヨガも試みられている。
同じように大切なのが食事と体重のコントロール。和食を基本に一日3食をしっかり、しかも食べすぎないようにいただく。
ヒトの産道は、骨盤の曲線にそって「く」の字に曲がっている。赤ちゃんは、この産道を回りながら降りてくる。だから、産婦が起き上がった姿勢は、重力の助けを借り、赤ちゃんを産み落とす姿勢なのである。逆に、仰向けに寝て産むと、重力に逆らって赤ちゃんを産み上げることになる。分娩台での仰臥位のお産は、生理的に不利な姿勢なのである。
ここらあたりの解説は、すべて実際の写真がついていますので、男である私にもよく分かります。ありがとうございます。
写真は、赤ちゃんが母体から生まれ出てくる様子、そして生まれた瞬間までよくとらえています。さすがプロのカメラマンです。
出生してから2時間ほど、赤ちゃんははっきり覚醒している。これは、産道を通過するときの刺激で交感神経からホルモンがたくさん分泌されているため。そして、その後、赤ちゃんは深い眠りに落ちる。
赤ちゃんは、家族と対面し、「やっと会えたね」と言わんばかりの表情で親の顔をじっと見つめる。そして、顔をもぞもぞ、口をくちゅくちゅ動かして、おっぱいが欲しいというそぶりをしめし、やがて乳首を探しあて、上手に吸う。
明日香医院では、お産後3日目には退院する。標準の5日より早いけれど、安産が多いので十分に可能なこと。
この本は、産科医を取りまく厳しすぎる状況を大いに告発する本でもあります。その点にも心うたれました。
日本人の出生数は減少の一途をたどっている。2005年には106万人。人工妊娠中絶数も減っていて、29万人。15歳未満の人口は1770万人、人口比13.6%は過去最低となっている。総数で31.6%も減っている。産科当直が多くてきつい、汚い、訴訟が多くて危険という3K医師だから。
産婦人科勤務医の当直回数は月6.3回、1ヶ月間の夜間呼び出しが20回をこえていて、体力・気力の限界で勤務している。そして、訴訟の数の10倍は紛争がある。さらに、その紛争のうしろに患者と医療者のくいちがいが大きい。
患者のマナー違反が多いことも著者はきびしく批判しています。なるほど、と思いました。弁護士である私も、一生懸命にやっても、それを当然と思い、感謝されないどころか、いろいろ文句を言われることが少なくないからです。
すごくいい写真集でもあります。私の知らない世界を知ることができました。ありがとうございます。明日香医院のみなさん、身体に気をつけて、引き続きがんばってください。
日曜日に梅の実を収穫しました。今年は50個近くもとれました。紅梅・白梅あるうちの白梅のほうです。紅梅のほうには実がついていませんでした(花も少なくなったせいでしょう)。
梅の隣に植えているスモークツリーが見事です。茜色というのでしょうか。黒っぽい朱なのですが、鮮やかさもあります。もう少しすると、フワフワとした感じになります。まさにスモーク(煙)に包まれてた本です。
朱色のアマリリスの花が一輪咲いていました。フェンスにクレマチスが濃い赤い花を咲かせてくれました。ほれぼれするような濃い赤色です。
(2008年2月刊。2600円+税)