弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2008年5月 2日

私はこうして受付からCEOになった

アメリカ

著者:カーリー・フィオリーナ、出版社:ダイヤモンド社
 アメリカ屈指の大会社の社長(CEO)にまでなった女性の語る自叙伝です。それなりに、読みごたえがあり、教訓にみちています。アメリカでは、恐らく日本でも同じことでしょうが、大会社のなかで勝ち抜くのは大変のようです。
 スタンフォード大学では、フランス語でカミュの『異邦人』を読んだ。少し荷が重すぎた。ヘーゲルの弁証法も学んだ。これは、ビジネスでも応用している。
 UCLAのロースクールに入学して、一日目で選択を誤ったことに気がついた。過去のことばかりで、新しいことが何もない。そう感じられた。しかも、正義ではなく、判例法で決められたことに従うだけ。まったく魅力を感じなかった。毎日、頭痛がして、眠れない夜が何ヶ月も続いた。父が様子を見に来たとき、法律が嫌いだと言ってやった。
 いやあ、こんなふうに言われると弱ってしまいます。過去をふまえてこそ、明日に生きる解釈もできると思うのですが・・・。
 ある朝、シャワーを浴びながら、頭痛の原因に思い至った。そのとき私は22歳だった。両親を喜ばせるための人生はありえないことに気がついたのだ。私の人生は、私のもの。やりたいことをやらなければ。そう気がついた瞬間、私の頭痛はウソのように消え去った。
 たしかに、私の人生は私のもの。その点はまったく同感です。一度しかない人生ですからね。やはり、親の束縛はごめんです。
 怒ったときには、低い声で話す。大声は出さない。静かに言う。最後までやり抜く覚悟がないなら、人を脅かしてはいけない。こちらが絶対に正しいという確信がないなら、そして本当に重要な問題でないなら、脅してはいけない。
 このまま黙って罵られていたら、女がすたる。こう考えて、バーンと両手で机を叩いた。「黙んなさい。この、すっとこどっこい。黙って聞いていれば、いい気になって。よくも、私をタコ呼ばわりしたわね。ふざけるんじゃないわよ」
 いやあ、激しいですね。見上げたものです。
 上手に交渉をすすめるためには、相手を知ること、相手に敬意を払うことが欠かせない。相手が大切にすることも自分も大切にし、時間をかけて信頼を得る。ビジネスの世界では、人は信頼と尊敬で結ばれている。信頼と尊敬だけが交渉を成功させ、対立する人同士を結びつける役割を果たせる。
 ひゃあ、こんなことを成功したアメリカのビジネス・ウーマンが言うのですね・・・。トップ・ビジネスの世界では、人情みたいなものを全部切り捨てるのかと思っていましたが、違うのですね。
 部下が何かしらの成果を上げたとき、ことの大小を問わず、認めて評価した。これが自分にできる最善のことだった。なーるほど、ですね。
 自分をビジネスウーマンだと思ったことはない。私はビジネスパーソンだ。たまたま女だというだけ。いつも、こう答えた。なるほど、なるほど。そうですよね。
 有名人というのは、公共物である。血の通った人間ではなく、公園の銅像のようなものだ。じろじろ眺められ、批判され、風刺の対象にもなる。スターの誕生は喝采で迎えられるが、転落にも同じくらいの喝采が送られる。
 ヒューレット・パッカードのCEOになる前、2つの心理テストを受けさせられた。一つは、ウェブ上で質問に答える。3時間かかった。もう一つは、2人の心理学専門家との面接で、こちらも2時間以上かかった。
 うひょー、社長を選ぶのに、アメリカでは心理テストなんてものをやるのですか、ちっとも知りませんでした。日本では、とても考えられないことだと思いますが・・・。
 リーダーが求められる資質は3つ。第一は、人格。率直で勇気があること。第二は、能力。自分の強みを知り、それを生かせること。足りないところを知り、他人に任せたり、学習したりできること。第三は、協調性。いつ助けが必要かを見越して手を差しのべること。広い人脈をもち、すすんで情報の共有ができること。
 誰でも、いつでも、どこでも、リーダーになることは可能だが、言動が終始一貫していなければならない。
 会社を改革するには、一人ひとりがこれまでと違う状況に身を置いて考えることが必要だ。自分の地位を守ろうとしたら、共通の立場に立つことはできない。
 リーダーは生まれながらにしてリーダーなのではなく、つくられるもの。リーダーシップは、放っておいても自然に身につくものではなく、教え、育てるものだ。
 さすが、ビジネスと経営に苦労した人の言葉であると感心しました。資本家、恐るべし。
(2007年11月刊。1600円+税)

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