弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2008年4月25日

生命科学の冒険

人間

著者:青野由利、出版社:ちくまプリマー新書
 AIDとは、夫以外の匿名の第三者から精子をもらって、子どもをもうける方法のこと。このAIDは、日本でも50年以上前から慶応大学を中心に実施されていて、1万人以上が生まれている。しかし、ほとんどの両親が子どもに真実を伝えていないため、その実態は明らかではない。そのような子どもの一人は、自分にとってショックだったのは、自分がAIDで生まれたという事実でなく、親がそれを自分に隠していたことだと言います。うむむ、これは難しい問題ですよね。
 いま、条件つきながら、AIDで生まれた子どもには、精子を提供した人の住所・氏名を知る権利を認めようということになっています。ただ、そうすると、精子を提供する人(男性)が減るかもしれませんね。
 日本で祖母が孫を出産したケースがあるそうです。2006年10月、病気のために子宮を失い、自分で子どもを産めない娘のために、その母親がかわって「代理出産」したというのです。妻の卵子と夫の精子とを体外受精し、代理母が妊娠・出産するという方法です。代理母となった祖母は、50代の後半で、すでに閉経していたため、ホルモン剤をつかって妊娠・出産できるように調整した。うーん、これも考えさせられます。
 2007年、日本初のクローン豚が生まれた。クローン豚は食べるためではなく、人間の臓器移植につかえないかとして研究・開発されてきた。人間の臓器移植には、人間の臓器をつかうのが普通だが、そうすると数に限りがある。豚は、臓器の大きさや機能が人間に近いので研究されている。人間へ移植したときの拒絶反応をおさえた組み換えクローン豚がつくり出されている。
 問題の一つは、移植を受けた人が豚のもつウィルスに感染する恐れがあること。下手すると、人間界に豚のウィルスが蔓延してしまいかねない。
 映画『ジュラシック・パーク』では恐竜が再生されていた。絶滅した哺乳類を再生できる条件は3つある。第1に、再生させたい動物の完全な「生きた細胞」が残っていること。第2に、近縁の動物の卵子があること。第3に、代理母になる動物がいること。「生きた細胞」とは、凍結保存されていてもいいけれど、培養すると活動を始めることのできる細胞のこと。もし細胞が残っていても、中のDNAがこわれていたら、培養しても生き返らせることはできない。DNAだけが存在しても、今の技術では、その生物を再生することはできない。つまり、『ジュラシック・パーク』は、今のところ不可能だということです。
 クローン人間は、技術的には作ることは可能だ。しかし、人間は遺伝子だけで決まっているものではない。育った環境や教育、本人の努力にも大きく左右されている。実は、これは、動物でも同じことである。クローン牛でも、性格が違っている。そうなんですね。
 クローン動物は、大腸菌が分裂するのと同じように、無性生殖によって生まれる。科学技術の発達は、これまで考えてもみなかったような新しい課題を人間に対して突きつけている。人間よ、おまえは一体、何者なのか、と。
 人間とは、どんな存在なのか、改めて考えさせられました。
(2007年12月刊。760円+税)

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