弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2008年4月18日

トカゲ

司法(警察)

著者:今野 敏、出版社:朝日新聞社
 『隠蔽捜査』もなかなか読ませましたが、これも面白くて、車中で一気に読み上げてしまいました。とてもよくできた警察小説です。
 警視庁捜査一課には、トカゲと呼ばれる覆面捜査チームが存在する。トカゲはバイク部隊だ。特殊犯係だけでなく、刑事部のなかにメンバーが分散していて、いざというときに招集される。ウソかマコトか知りませんが、ありうる設定になっています。
 銀行員3人が誘拐され、犯人は身代金として10億円を要求した。ところが、銀行のトップは他人事のような対応で、銀行の蒙る損害のみを気にしている。
 銀行が庶民のことを考えたことなど、歴史上一度もない。これからは小額の口座なんか作らせたくないと考えている。1千万円以下は小額口座だ。いずれ口座維持手数料を支払えと言ってくるだろう。
 なーるほど、そうですよね。私の事務所との対応をみても、まったくゴミのような存在としかみていないことがよく分かります。もちろん、億単位ではありませんが、1千万円よりはずっと大きい預金なのです。それでも、やっぱり小額扱いされています。何億、何十億円もの預金する人だけが得意先なのですね。だけど、銀行員に聞くと、合併・統廃合がすすんで内部も、ますます大変のようです。ノルマ、やっかみ、対立抗争など・・・。
 銀行は、ほんまの悪もんや。世の中、えげつないことやる連中はぎょうさんおる。トイチの金貸しも地上げやるヤクザも悪もんやけど、その裏に必ず銀行がおる。銀行は手を汚さんと、汚い金を吸い上げるわけや。金をたいして必要としてへん大企業には格安の金利で金をどんどん貸して、一方で切実に金に困っとる中小企業には、びた一文貸さへん。なあ、こんな悪いやつ、ほかにおるか。銀行員てのは、人殺しより悪いやつや。人殺しは、少なくとも切実な理由があることが多いし、罪の意識もある。けど、銀行のやつら、どんなに悪いことしても、罪の意識があらへん。
 なーるほど、なるほど、そうですよね。もちろん、大半の銀行員はノルマに追われながらも真面目に働いておられることと思います。問題はトップの意識と行動です。
 犯人検挙のためにNシステムが活用されている。Nシステムの全貌は明らかにされていない。これって怖いことですよね。莫大な税金を投入しているのですから、私たちには知る権利があります。
 銀行がなぜ、警察OBを顧問として雇うかというと、脅迫などの問題を自力で解決したいという思惑があるから。銀行には、なるべく警察沙汰にはしたくないという体質がある。それは、銀行内部は叩けば埃だらけなので、できるだけ警察なんかに触ってほしくないからだ。
 警察内部の特殊捜査犯、殺人犯、公安などのナワバリ根性のぶつかりあいも描かれていて、ふむふむ、そうなんだろうなと読ませる本です。
 チューリップの花が散りはじめました。そばにアイリスがすっくと伸びた花を咲かせています。白地に気品のある黄色い花です。少し離れたところに青紫のアイリスも咲いています。アスパラガスが伸びてきました。でも、まだエンピツほどの太さしかありません。親指ほどの太さのものが出てきたら食べようと思っています。
(2008年1月刊。1500円+税)

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