弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2008年4月16日

ヒトラーとは何者だったのか?

ドイツ

著者:阿部良男、出版社:学研M文庫
 文庫本なのに、700頁もあります。ナチス・ヒトラーについて書かれた本を3000冊以上も読んだ人が、そのうちの220冊を厳選して要旨を紹介した本です。なんと、学者ではありません。銀行に勤めながら、長いあいだ、ヒトラー関連の文献を集めたというのです。私も、この220冊のうち、かなりの本は読んでいますが、負けました。といっても、私も、ナチス・ヒトラーに関連する本は300冊は読んでいると思います。
 ある分野について一応読んだと言えるためには最低300冊は読了することが必要だという説を読んだことがあるからです。ですから、私の書庫も、同じテーマのものは、集中しておくようにしています。そのテーマで書くときに必要な文献を、すぐに取り出せるようにするためです。私は、ヒトラーと同じように、ソ連とスターリンについても多くの本を読んでいます。
 ヒトラーは臆病で、総統などという柄じゃない。優柔不断で、考えがぐらつき、人の意見に左右される。いま誰かと話すと、そのたびにころっと意見が変わる。だが、抜け目がなく、立ち回りはうまいし、気の弱い人間に限ってそうなのだが、残忍なところがある。
 これはヒトラーと同時代の人の評価です。なるほど、と思います。ヒトラーは単純な精神異常者ではありませんでした。
 ヒトラーは、暴力行為がもっとも効果的な政治の手段であることはよく理解して実行していた。その効果は噂と恐怖の拡大現象で増殖し、次第に民衆の独立的な抵抗意識を奪っていった。
 アメリカのフォードは、ユダヤ人嫌いで、ドイツに輸出した自動車の売り上げから、ヒトラーに資金援助した。
 ナチス突撃隊(SA)のレームは、資本家と決別することをヒトラーに要求した。それは旧体制との妥協を考えているヒトラーには同意できないことだった。
 ヒトラーが1934年6月にSA隊長レームなど89人を粛清したことからナチ党の腐敗に対する断固たる処置としてヒトラーを高く評価し、神話が生まれた。
 ナチス・ヒトラーは、生きるに値しない障害者を計画的に抹殺した。精神障害者、結核患者、知的障害者など20万人がドイツ内の6施設で薬物やガスで殺された。
 この本で私が初めて知ったのは、アメリカ軍が200万人のドイツ兵を捕虜としたのに、通常の捕虜(POW)として扱わず、扶養する義務のない「新しい身分の捕虜」(DEF)と扱ったことから、100万人ものドイツ人が消えて(死んで)いったということです。アイゼンハワー元帥の考えによるものでした。
 「水晶の夜」の真相は、ゲッペルス宣伝大臣がチェコ人女優と恋に落ちて結婚を望み、宣伝大臣の辞任と日本大使を希望したのに対してヒトラーが怒ったことから、ゲッペルスが名誉挽回を図ったものだというのです。ひどーい話です。
 ホロコーストは、並の人間の想像力をはるかに超えていた。だからこそ、ホロコーストを否定する人々は、現在に至るまで、そんなことはウソだと言いはることができた。ナチ犯罪はあまりにも特異で、容易には理解しがたいものであるからこそ、これを否定しようとする、よどんだうねりは絶えることがなかった。
 それでも、ウソはウソなのです。日本軍が南京で大虐殺をしたことが事実であるのに、あたかもウソであるかのようにいいつのる日本人が絶えないのが悲しい日本の現実です。 1944年7月のヒトラー暗殺計画に直接加担したのは200人近い。21人の将軍、33人の将校、2人の大使、7人の外交官が含まれていた。処刑されたのは年内に5764人、年が明けてさらに5684人だった。ヒトラー最大の危機だったのですね。
 ヒトラーは、人種的観点からはむしろ問題の多い日本人との同盟を拒否はしなかったが、日本との対決を遠い将来に覚悟していた。ヒトラーは、日本が話題になるたびに、いわゆる黄色人種と手を握ったことを残念がる口ぶりを示した。
 ヒトラーは黄色人種、つまり日本人も蔑視していました。ヒトラーの言葉が紹介されています。
 白色人種の国々が結束していれば、極東を手に入れて、日本がこれほどのさばることもなかったはずだ。
 ヒトラーと妻エヴァの遺体は、埋葬場所を転々と変え、1970年4月、ソ連のアンドロポフKGB議長が最終処分を指示した。遺体は火葬され、灰はエルベ川支流に捨てられた。
 ヒトラーについて、その全体像を知る手がかりを与えてくれる本です。
 昨日は絶好の春うららかな日和でした。車で山間部の支部まで出かけました。桜の花がハラハラと散っています。ナシの白い花が満開です。民家の庭先に咲くハナズオウの赤紫色の花があでやかに輝いていました。レンゲ畑となっていた田んぼにトラクターが入って、すきおこしをしています。
 わが家のチューリップは今400本咲いています。いまが真っ盛りで、写真でお見せできないのが残念です。
(2008年1月刊。1300円+税)

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