弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2008年4月 1日
貧困大国アメリカ
アメリカ
著者:堤 末果、出版社:岩波新書
サブプライムローン破綻が世界経済をゆるがしています。いったい、何のこと・・・?
アメリカの住宅ブームが勢いを失いはじめたとき、業者が新たに目をつけたターゲットは国内に増え続けている不法移民と低所得者層だった。破産歴をもつ者やクレジットカードがつくれなくても、住宅ローンが組めるといって顧客をつかんだ。利率は同じ所得層の白人に比べて3〜4割も高い。2005年、アメリカで黒人(アフリカ系のアメリカ人)の55%、ヒスパニックの46%がサブプライムローンを組んでいる。白人は、わずか17%だ。
2007年1月から6月までの半年間で差押物件は全米で57万件をこえた。これは前年比58%増。このサブプライム債権を担保とした証券は、一般の住宅ローンを担保とした証券よりリスクは高いけれど、金利自体が高いために利回りが大きく、ヘッジファンドや銀行が飛びついた。住宅価格が下がって貸し倒れが増えはじめると、日米欧の中央銀行は銀行間の決済が滞ってパニックになるのを防ぐため、巨額の資金を市場に供給しはじめた。しかし、2007年7月にアメリカの大手格付機関が格下げを発表し、8月にフランスのBNP銀行がファンドの一部凍結を実施したことから、世界中を大パニックに追いこんだ。
むひょう。いやですね。大金持ちが貧乏人を食い物にしておいて、破綻したら、また貧乏人にしわ寄せするというのですからね。許せません。
貧困は肥満を生む。メタボになりかけ、ダイエットに励んだおかげで半年で5キロの減量に成功し、標準体重まであとわずかというところまで来ている私にとっても、他人事(ひとごと)ではありません。ニューヨーク州では、公立小学校の生徒の50%が肥満児だというのです。それは、ひどーい。家が貧しいと、毎日の食事は、安くて調理の簡単なジャンクフードやファーストフード、揚げもの中心になってしまう。学校予算が切り詰められているため、給食しようとしても、メニューは、安価でカロリーが高く、調理の簡単なインスタント食品かジャンクフードになってしまう。
アメリカ国内の「飢餓状態」を経験した人は3510人(全人口の12%)。うち2270万人が成人(10%)、1240万人が子どもである。「飢餓人口」の特徴は、6割が母子家庭、子どものいる方がいない家庭の2倍、ヒスパニック系かアフリカ系に多い。収入が貧困ライン以下。その39%が何らかの職業についている。
国民の生命にかかわる部分を民間に委託するのは間違いだ。国が国民に責任をもつべきエリアを絶対に民営化させてはならない。
私も、まったく同感です。国は税金を徴収する以上、やるべき最低の義務があるのです。
2005年にアメリカで個人破産した204万人のうち、半数以上は高額の医療費負担によるもの。私も、20年以上も前に、アメリカでそのことを聞いて耳を疑いました。アメリカには国民健康保険制度がなく、民間の保険会社が適当にやっているので、医療費負担がものすごいのです。映画『シッコ』を見るとよく分かりますが、貧乏国のキューバで市民が安心して生活しているのは教育費も医療費もまったくタダだから、なのです。
病気になって医療費が支払えずに自己破産した人のほとんどが中流階級であり、民間の医療保険に加入していた人なのです。
アメリカの医療保険制度(日本でいう生活保護)であるメディケイドの受給者は、 5340万人であり、貧困層が急増しているため、50%もの増加率となっている。
アメリカの巨大病院チェーン(HCA社)は、全米に350の病院をもち、年商200億ドル、従業員28万5000人。市場原理とは、弱者を切り捨てていくシステムである。
軍隊に若者が入る理由の一つに医療保険がある。貧困層の高校生は、家族そろって無保険のことが多く、入隊したら本人も家族も兵士用の病院で治療が受けられるようになる。これは、非常に魅力的だ。
2003年の時点で、アメリカ国籍をもたない兵士が4万人近くもいる。軍は年間26億ドルをリクルート費用につぎ込んでいる。
アメリカには350万人以上ものホームレスがいて、その3分の2は帰還兵である。心の病いが深刻になっている。2007年8月の時点で、イラクにおいて死んだアメリカ兵は3666人(最新のニュースでは、ついに4000人をこえました)。その5%が自殺によるもの。
トラック運転手を募集という広告。しかも、2年間の契約で、高額。応募すると、勤務地はクウェートと書いてあったのに、実際に連れていかれたのはイラクのアメリカ陸軍基地だった。派遣社員がイラクで死んでも、民間人なので戦死者にはならない。政府には発表する義務がない。
ネパールから生活のために派遣会社を通してイラク入りするネパール人が1万7000人もいる。月収2500ドル。そんなハリバートン社は、イラクでの売上が日本円にして7500億円にもなる。そして、ハリバートン社に対してアメリカ軍は、業務奨励賞と7200万ドルというボーナスを与えた。
まさしく、戦争で肥え太っているアメリカ企業がいるのですね。許せません。
日本人がアメリカ兵の一員としてイラクにまで出かけている実情があることを初めて知りました。日本人もアメリカ軍の一員としてイラクへ出かけているのですね。もちろん、例の自己責任の原則の範囲内のことでしょうが、ひどいものです。日系アメリカ人将校は、イラク出兵を拒否して軍法会議にかけられてしまいましたが・・・。
アメリカに永住権さえ持っていれば、国籍に関係なく入隊できるのです。そういえば、40年前のベトナム戦争のときにも、清水君という日本人青年がアメリカ軍の一員としてベトナムの戦場へ派遣され、戦争の現実を知って脱走して日本に帰国してきたということがありました。
今は、黒人も白人も、男も女も、年寄りも若者も、みな目の前の生活に追いつめられたあげくに選ばされるのに戦争があるというだけのこと。格差社会の下層部で死んでいった多くの兵士にとってこの戦争はイデオロギーではなく、単に生きのびるための手段にすぎない。貧乏人の黒人だけがイラクの最前線に行くわけではない。
アメリカ社会は憲法25条を奪った。人間らしく生きのびるための生存権を失ったとき、9条の精神より目の前のパンに手が伸びるのは、人間としてあたり前のこと。狂っているのは、そのように追いつめる社会の仕組みの方である。
そうなんですよね。アメリカのような社会にはなりたくないものです。
(2008年1月刊。700円+税)