弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2008年3月12日
公認会計士VS特捜検察
司法
著者:細野祐二、出版社:日経BP社
粉飾決算したとして無罪を主張しながら一審も二審も有罪となった公認会計士が、いまの司法制度を厳しく弾劾した本です。検察と裁判所だけでなく、弁護士までもが鋭く指弾されています。経理処理のあり方については分からないことだらけですが、著者の憤慨ぶりはよく伝わってくる本です。
日本の司法は激しい制度疲労を起こしている。制度疲労は、検察官だけでなく、裁判所にも、そして弁護士にもある。
報道記者は、なぜ真実を報道しないのか。司法記者クラブの存在、そして、99.9%の起訴有罪率のなかで、報道機関自身が本来の健全な批判精神を忘れ、逮捕すなわち有罪という予定調和に安住しているのではないか?
検察官は取調の冒頭でこう言った。
あなたには黙秘権がある。しかし、行使するな。黙秘権を行使することは、あなたのためにならない。今日の(任意の)取り調べについては、弁護士にも話してはならない。ところで、テープレコーダーなどを持ち込んでいないだろうな?
否認すると・・・。
いい加減にしろ。すべて分かっているのだ。いつまで、ふざけた態度をとっているのだ。検事の声は怒りに震えている。立ったまま大声を出し、足を踏み鳴らしながら、机の上から身を乗り出すようにして、まくし立てる。自分の大声で興奮し、その興奮で、また怒りが加速される。
著者は高血圧のため常に水分を補給しなければ血液の循環障害が出るので、医師からはこまめに水分を補給するよう注意されているのに、飲むことが許されない。ところが、取り調べにあたった検察官は、大きな湯飲み茶碗でお茶を飲みながら取り調べをした。
検察官は、こう言った。
検察官面前調書は、被疑者の言うことをそのまま書くものではない。被疑者と検察官の合作なのだ。したがって、調書には検察官も署名する。
特捜検察は時流に乗った事件の立案を求める。公認会計士の責任がマスコミをにぎわしているので、本件は立件された・・・。
著者の勾留期間中の取り調べは、21日間、合計95.5時間にわたって行われた。190日後に、やっと保釈された。逮捕の翌日から最初の日曜日までの6日間は、徹底した脅迫で痛めつける。その後は、罵声や恫喝による脅迫は止む。その後の10日間は、シナリオにあわせた論詰に変わる。最後は、昼に自白調書への署名を説得し、夜になると強要するというパターンだ。
21日間の勾留期間中の取り調べで、何度も、「もうダメだ。署名するしかない」と観念した。それを踏みとどまったのは、弁護士の励ましがあったから。
判決は、検察官の論告をそのまま認め、求刑どおりの懲役2年、執行猶予4年だった。即日、控訴した。
弁護人は、アリバイ証明のための証拠請求をしてくれなかった。
どうせ、請求しても、検察官が開示するかどうか分からない。裁判官が証拠開示命令を出してくれるかどうかも疑問だ。弁護人は、こう言った。
でも、やってみないと分からないではないか。著者は、こう批判します。もっともです。でも、私も、ときどき同じようなことを言うことがあります。
日本の弁護士は、どうせ有罪に決まっているという日本の司法の予定調和のなかで、多かれ少なかれ検察官となれあい、裁判官に対する執行猶予おねだり型の弁護活動しか行わない。容疑を全面否認して検察官と全面対立する被告人の弁護においても、弁護人は裁判所の心証を良くするなどと非論理的な理屈を言い立てて、やはり無罪判決おねだり型の弁護活動を行ってしまう。これでは、検察官も裁判官も、弁護士なんか怖くない。だから弁護士は、検察官からも裁判所からも軽んじられる。なぜ法の正義と被告人の人権を全面に打ち立てた弁護活動をしないのか?
検察官は、証人尋問の前にリハーサル(証人テストという)をやる。そして、証言が終わると、検察官の部屋で反省をする。これは、前もって証言のあと検察官の部屋に来るよう証人はクギを刺されることによる。検事の手直しを受けたうえ、丸暗記させられた。 40回ものリハーサルをやらせられた。
要するに、この事件は、著者が捜査段階で公認会計士としての守秘義務を理由に供述調書への署名を拒否したことから、捜査当局が不当な私憤を抱き、その私憤の上に強制捜査を行ったところ、たまたま机の引き出しから100万円の現金が発見されたことから、証拠にもとづかないで逮捕したことによる免罪事件だ、と主張しています。
著者の怒りが迫力をもって伝わってくる本です。裁判員裁判を批判する人が少なくありませんが、私は今の職業裁判官による裁判に任せていいとは思えませんので、裁判員裁判を地道にすすめていき、少しでもより良いものに改善していったほうが良いと考えています。
(2007年11月刊。1800円+税)