弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2008年2月15日

江戸人のこころ

江戸時代

著者:山本博文、出版社:角川選書
 江戸時代の人が書いた手紙が自由自在に読めたら、どんなにいいかと思うのですが、私にはアラビア文字と同じで、さっぱり分かりません。それをスラスラ読み解く学者って、やっぱり偉いですよね。
 遊女がイギリス商館長のカピタンであるリチャード・コックスに宛てた手紙が紹介されています。江戸時代の平戸に1623年(元和9年)までイギリス商館があったのですね。この遊女の手紙は大英図書館の東洋・インド部に所蔵されているものです。
 優美なかな書きの手紙なので、大坂の陣で没落した武士の妻女出身とも考えられる。かなりの教養をもった女性だろうと著者は推測しています。
 さてさてあいたいぞ、見たいぞや・・・という文言があり、胸をうちます。
 多摩地方の上層農民(名主クラスの裕福な農家)の娘が、江戸城大奥や御三卿などの奥へ奉公に出ていた。これは、貧乏な家庭を助けるための「口減らし」ではなく、いわば田舎から都会の女子大へ行くような、行儀見習いのための奉公だった。
 多摩地方は、江戸城大奥の下級女中の供給源となっていた。その中の一人、御殿女中だった吉野みちの手紙115通が残されていて、紹介されています。
 みちは、奥奉公がやたらとお金がかかったため、実家の父親によく小遣いをねだっている。うーん、なんだか、今もよくありそうな親子のあいだの手紙です。ぴんときますね。
 滝沢馬琴の手紙も紹介されています。八犬伝の定価は、1冊あたり、1分3朱。金1両を現在の物価で換算すると、20万円になるので、八犬伝は1冊あたり8万7500円。初版500部で、江戸で300部を売り出し、上方へ200部を発送する。江戸ではすぐに増刷し、年末までに累計600部は確実。発売して半年で800部の売上げがあった。350両になる。経費を差し引いた純益金は300両なので、6,000万円のもうけだ。ところが、馬琴の手にしたのは、原稿料は1冊わずか2両が相場だった。なーるほど、江戸時代の出版事情って、そういう仕組みだったんですか・・・。
 赤穂浪士の何人かの手紙も紹介されています。大石内蔵助の手紙から、内蔵助は、たしかに祇園や伏見に踊りを見に行ったが、それは息子の主税と一緒だった。したがって、内蔵助の遊興は、こうした物見遊山が中心で、祇園の茶屋で派手に遊んだということではなかったのだろう。ふむふむ、そうなんですか・・・。
 すでに自分の命はないものと決め、盟約に加わった者たちの首領になっている内蔵助の手紙は、穏やかで、妻の身体を気づかい、周囲の人の気遣いに感謝し、妻への思いやりに満ちている。
 なぜ討ち入りをしたのか。武士が面子をつぶされることは、死に勝る屈辱である。これを回復するためには、吉良を討って喧嘩両成敗法を自らの手で実現しなければいけなかったのだ・・・。
 江戸人の心の奥底を少しだけのぞいたような満足感を与えてくれる本でした。
(2007年9月刊。1400円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー