弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2008年2月13日
ドキュメント仙波敏郎
司法(警察)
著者:東 玲治、出版社:創風社出版
ある日、突然、この本が送られてきました。なぜだろうと不思議に思っていると、本のうしろを見て分かりました。実は、主人公の裁判に私も代理人の一人になっていたことからでした。申し訳ないことに、すっかり忘れていました。
オビに書かれている文章をそのまま紹介します。
全国で唯一の現職警察官による警察の組織的裏金づくりの告発。それによる不当な配置転換を違法として争った国賠訴訟一審判決は劇的な勝利となった。本書は、警察という強大な組織と対峙した一巡査部長の1000日の記録である。
なるほど、なるほど、そうなんですね。日本で一、二を争う強大な権力組織である警察と闘い続け、今なお現職の警察官であり続ける主人公の姿勢には、ともかく頭が下がります。主人公は、どうやら私と同世代でもあるようです。
警察の裏金づくりの大きな手法が捜査報償費だ。それを明かすと、捜査協力者の身に危険が及ぶという理由から、書類の公開はされなかった。しかし、主人公は、捜査協力者なるものは、自分の知る限り、すべて架空の人物にすぎないと断言します。
捜査報償費は、所属に配分された瞬間に裏金に化け、そのつじつま合わせのためニセ領収書づくりが始まる。だから、書類の開示ができないだけのこと。考えてもみてほしい。誰が、身に危険の及ぶ情報を3千円や5千円などのハシタ金で売り渡すものか。捜査報酬費は、全部、裏金にされる。それで署長の受けとるお金は、年間に1000万円になる。
主人公は、新任巡査部長として着任した警察署でニセ領収書の作成を求められ、それを拒んだところ、署長から「組織の敵」というレッテルを貼られた。
ニセ領収書の作成を3回ことわったところ、着任して9ヶ月後には駐在署勤務を命じられ、身重の妻を連れて赴任した。そのあと、14所属の20部署を転々と、ころがされるように転勤させられた。交番と駐在が主だ。ニセ領収書を書かなかったので、「マル特」つまり組織不適者の烙印を押された。警部補試験を受けても合格しない。いくら試験の成績が良くても、ニセ領収書づくりに加担しない限り、合格しない。上司から、はっきり言われた。なーるほど、組織不適者というんですか・・・。
主人公は、駐在の仕事を一生の仕事と心に決め、地域にとけこむことに務めると同時に、もてあますほどのエネルギーを夫婦共通の趣味であったダイビングに注ぎこんだ。
なるほど、なるほど。これも、一つの生き方ですよね。
内部告発をした主人公は、そのあと通信司令室に配置された。ここは、問題となった捜査報償費のような裏金づくりの原資となるお金がなかった。
主人公は、また、Nシステムによっても監視されている。そうなんですよね。Nシステムって、犯罪検挙だけでなく、警察が敵視する人物の監視につかわれているのです。私の住む町でも、これまでは路上に10個ほどもカメラがついていたのが、今はわずか3個しかありません。でも、性能は飛躍的に向上して、恐らく、車体ナンバーとドライバーの顔写真がセットで記録されるシステムになったのだと思います。
公安委員会と県議会の無能ぶりが糾弾されています。まったく同感です。いずれも税金による高額報酬が無駄になっている典型です。
愛媛県公安委員長が、ニセ領収書を私文書偽造にはあたらないと県議会で答弁したり、県議が知事と八百長質問したり、ひどいものです。自民党も公明党も、そして民主党も、県知事におもねる質問しかできない。共産党県議ともう一つの会派だけが、知事と警察を追求した。しかし、それは多勢に無勢でしかなかった。ああ、いやになってしまいます。でも、少数派の言っていることが後になってみると絶対的に正しいことが証明されたことって、少なくないですよね。
私と同世代の仙波さんに対して、心からなるエールを送ります。
山田洋次監督の最新作「母べえ」をみてきました。とてもいい映画でした。日弁連会長選挙の結果をみて重い気分だったのですが、しっかり心温まる思いを堪能して、なんだか見たされた気持ちがして、足取りも軽く帰ってきました。いえ、映画の内容はご存知かと思いますが、すごく重いテーマです。戦前、聖戦遂行に異を唱えた知識人が治安維持法で検挙され、残された家族の苦労話が淡々と描かれています。吉永小百合の凛々しい美しさは息を呑むばかりです。その若々しさに心躍る思いでした。子役の2人の女の子たちも実に自然で、家族愛にみちた家庭生活がくり広げられるので、見ていると、じわーんと心身がぬくもってくるのです。映画館のなかにはあまり若者を見かけず、中年のおじさん、おばさんが多いのが残念でした。大勢の人に見てもらって、興行的にも成功することを祈っています。ぜひ、あなたも映画館へ足を運んでみてください。
日弁連会長選挙についてですが、これまで日弁連がすすめてきた司法改革を全否定する候補に私の周囲で多くの弁護士が投票したことを知り、大変ショックを受けました。私のしてきたことがまったく理解されていなかったのかと思うと、悲しくもなりました。小泉の郵政改革にみられるような怒濤の攻撃のなかで日弁連は弁護士自治を守り抜いてきたと私は考えています。これにめげることなく、私は司法改革をすすめていきたいと考えています。
(2007年12月刊。1800円+税)