弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2008年2月 5日

ホメイニ師の賓客(下)

アメリカ

著者:マーク・ボウデン、出版社:早川書房
 イランのアメリカ大使館が占拠されて人質にとらえられている人々を救出するため、カーター政権は秘密のプロセスをたどっていた。そうです。人質救出のための直接的な軍事行動に出ることにしたのです。ところが、アメリカ軍の粋をきわめ、精鋭兵士を何ヶ月も訓練し、万全を期してのぞんだはずなのに、この救出計画はみるも無惨に失敗してしまいました。そのプロセスをこの本は明らかにします。
 デルタ・フォースは、カリフォルニアの海兵隊基地で6度目の徹底した予行演習を行い、上々の結果を出した。デルタ戦闘員は眠りながらでもほぼ完璧にこなせるくらい、自分たちの動きを知り尽くした。
 しかし、不測の事態を考えるべきだ。デルタはあくまで軽歩兵部隊だ。戦車や装甲をほどこした兵員輸送車が出てきたら、長くはもちこたえられない。その心配にこたえて作戦当夜は、ACー130ガンシップがテヘラン上空を旋回することになった。ACー130なら、イラン軍の装甲車が救出作戦に介入しようとしても破壊できる。
 デルタ兵士たちは何ヶ月ものあいだ隔離され、延々と訓練してきた。誰にも、自分のやっていること、行く先、戻ってこられそうな時期を教えるのを禁止されていた。何ヶ月ものあいだ、昼も夜も狭い空間で一緒に生活させられるのは、大人にとってじわじわと拷問にかけられるのにひとしい。意見がとげとげしくなり、あらゆることが口論の火種となった。
 カーター大統領は、イランの不法行為に並々ならぬ自制で応じた。国益と53人の人質の両方を重視し、慎重に対応した。それは国内外から高く評価された。支持率は、占拠の当初は2倍に上昇した。しかし、月日がたつにつれ、カーター大統領のとった自制策は弱さと優柔不断のあらわれと見られるようになった。
 MCー130は、アラビア半島の南東先端にあるオマーンの沖に浮かぶマシラという小島を夕暮れに飛び立った。1時間後には、MCー130機の1機とCー130の4機が続いて離陸した。MCー130の二番機には総勢132人に増えた急襲部隊の残り全員が乗っていた。地形に沿って飛べるよう、各機とも空軍の最新鋭の地形回避航法システムを装備していた。
 アメリカ軍のさまざまな部門から志願してきたペルシア語のできる兵士(全員がイラン系アメリカ人)や元イラン軍将校2人が、デルタ隊員とともに飛行機で運ばれた。
 MCー130一番機は目的地にふんわりと着陸できた。やわらかい砂のおかげだ。そしてMCー130の二番機も着陸した。ところが、そこへ、屋根に荷物を積み、驚いた顔のイラン人乗客40人を載せた大きなバスがやってきた。さらに、近くを走っていたトラックを撃つと、燃料を積んでいるトラックが爆発し、真昼の陽光なみのまばゆい閃光がひらめいた。バスは、タイヤがパンクし、走行不能となった。乗客のほとんどはチャドル姿の女性で、泣き叫ぶ。
 万事が予定の時刻表より遅れていた。ヘリコプター部隊が潜伏地点2ヶ所に夜明け前に到着するのは無理だった。 兵士たちは2時間も地上で待たされた。砂嵐が兵士たちの顔を激しく叩き、目をあけていられなかった。
 8機でイラン領内に侵入したヘリコプターのうち2機が、故障で引き返し、6機となった。そして、目的地に着いたとき、1機がエンジンを止め、使えるのは5機になった。
 仮に5機が潜伏地点まで行けたとして、翌朝、5機すべてが飛び立てるのか。
 一機か二機が飛び立てず、他のヘリも被弾したときには、人質と兵士をどうやって運ぶというのか?
 救出作戦の中止が決定された。ヘリコプターが飛び立つと、Cー130は四機とも、幸いにもイラン空軍から攻撃されることもなく、脱出することができた。戦闘機の護衛なしでイラン領内から脱出できたのは幸運としか言いようかない。
 アメリカの精鋭救出部隊は、何ヶ月もの訓練を経て、科学技術の粋を尽くしたにもかかわらず、敵との交戦がないまま兵士8人とヘリコプター7機とCー130一機を失った。完全な敗北だった。大潰走という言葉どおりであった。
 この大失敗を聞いたアメリカ人の多くは、救出作戦には賛成しつつ、失敗に終わったことを悲しみ、落胆したが、カーター大統領を非難することはしなかった。
 救出部隊の派遣を決断したカーター大統領には66%の支持が寄せられた。
 カーター大統領はその後も人質救出に全力を傾注したが、次のレーガン大統領はまったく関心をもたなかった。すべて前大統領の責任問題だとみなしていた。
 イランのアメリカ大使館の人質救出作戦の大失敗の実情を知ることができました。やはり、何ごとも力による解決には限界が大きいということですよね。
(2007年5月刊。2500円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー