弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2008年2月 4日

したたかな生命

著者:北野宏明・竹内 薫、出版社:ダイヤモンド社
 いやあ世の中には知らないことって、ホント、多いんですよね。知れば知るほど、世の中のことが少し分かってきたみたいで、胸がワクワクし、うれしくなってきます。この本も、なるほどなるほど、そうだったのかと、ついついたくさん赤エンピツでアンダーラインを引いて読みすすめました。おおいに知的刺激を受ける良質の本です。
 はじめの書き出しは何やら難しいので、例によって飛ばし読みをしました。ロバストネスが出てくるあたりから、素人の私にもよく分かる話になって、俄然、面白くなります。
 ロバストネス。耳慣れない言葉。頑健性と訳されることが多いが、あまり本質を表してはいない。いろいろな攪乱に対して、その機能を維持するシステムのこと。頑健という言葉から来る堅いイメージとは違い、よりしなやかで、ダイナミックなもの。逆に、ロバストネスがないと、簡単な攪乱で、すぐにシステムが機能不全に陥ってしまう。つまり、そのようなシステムは脆弱性をもつ。システムのノイズとか故障は、システム内部からくる内乱で、乱気流のようなものは外乱です。内乱と外乱をあわせて攪乱と呼ぶ。
 ボーイング777(B777)の設計思想は、徹底した冗長性の導入にある。B777は、すべて電子制御で飛行機を制御するので、二重三重の冗長性という概念を導入している。たとえば、3台あるコンピューターは、別々の設計になっているし、CPUはモトローラ、インテル、デハイスと別々のメーカーのものをつかっている。2台のコンピューターは電子機器関係のスペースに設置されているが、3台目は貨物室の前方に設置されていて、火災や物理的な損害から全部がダメージを受けないようになっている。
 このように同じような要素がたくさんあって、それがお互いにバックアップするというときには、「冗長性」という言葉が使われる。
 ロバストネスとパフォーマンスは、トレードオフの関係にある。それを説明する一つの例が牛丼の吉野家。吉野家は、単品経営をしていた。吉野家はアメリカ産のショートプレートという種類の牛肉だけを輸入していた。だから、価格と味というパフォーマンスの点で、他の店は吉野家にかなわなかった。営業利益は15%だった。単品経営のリスクをとったからこそ可能だった。多角経営とか仕入れルートを分散していたら、価格や味は、吉野家のレベルには達しなかったはずだ。吉野家が他品目メニューでは、望むレベルの収益率には達せない。だから、いま吉野家は、他品目メニューを扱うMM店舗と、牛丼専門店の2系統の店舗展開をしている。ハイリスクでハイリターンの牛丼専門店とローリスクでミドルリターンのMM店舗である。
 うむむ、なるほど、なーるほど、世の中って、そうなっているんですね・・・。よーく分かりました。それにしても、アメリカ産牛肉(ショートプレート)とオーストラリア産牛肉(オージービーフ)とで、同じ牛なのに何が違うんでしょうか。よく分かりません。
 糖尿病のしくみやがんの仕組みについての解説も大変興味深いものがありますが、ここでは割愛します。関心のある方は、ぜひ本を読んでみてください。
 人間の腸内細菌は、体の細胞の10倍あり、その重さは1.5キロもある。脳とほぼ同じ重さ。このバクテリア、フローラが存在しないと、腸管免疫は成立しない。バクテリア・フローラは、それ自体が人間の臓器だとも言われている。人間は、多くのバクテリアと相利共生しているため、多様な食物や病原体に対応できる能力を得ている。
 バクテリア・フローラは、自己なのか自己じゃないのかと問うと、広い意味では自己と考えざるをえない。なぜなら、バクテリア・フローラのまったくいないときには、人間は消化活動がほとんどできないから。
 いくつかのアミノ酸は、人間の体ではつくられないけれど、バクテリア・フローラがつくってくれるものを吸収している。免疫系も、バクテリア・フローラがないと形成されない。
 世の中をまた違った視点で考え、みることができました。著者に対して心よりお礼を申し上げます。ありがとうございます。
(2007年11月刊。600円+税)

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