弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2008年1月24日

現代の貧困

社会

著者:岩田正美、出版社:ちくま新書
 このところ、格差論の延長線上で貧困への注目が集まっている。その大半は、格差の拡大によって、急に貧困が多くなったと解している。その前提として、つい最近までの「豊かな日本」には貧困なんてなかったという認識がある。
 日本の高度経済成長以降、貧困はもはや解決したということで、貧困という言葉(ビンボーという言葉はまったく聞かれませんよね)はつかわれなくなった。
 実は今から40年前、私がまだ大学生のころ、地域(川崎市幸区古市場)でセツルメント活動していたころ、現代の貧困を考えるというのが、私の考えるべきテーマ(研究テーマと言うと、言い過ぎになります)でした。いえ、スラム街で活動していたのではありません。普通の下町、工場で働く労働者の居住街での貧困問題を調査し、考えていたのです。3交代問題、住環境の問題、食生活の貧しさなど、いろんな角度から、それなりに考え、議論していたものでした。
 格差と貧困とは異なる。格差は、基本的には、そこに「ある」ことを示すだけですみ、ときには「格差があって何が悪い」と開き直ることも可能だ。「能力のある」経営者が何十億円もの年俸をとり、何兆円もの資産があっても、その企業で働く労働者の年収が数百万円程度であっても、何も問題はないとされてきた。
 ワーキングプアになぜ日本人の注目が集まったのか。まじめに働いているのに、なお貧しいという事実に世間が驚いた、ということ。つい最近まで、日本では、その気になれば働く場はどこにでもあると皆が信じてきた。だから、その気になっているのに働く場がなかったり、働いているのに貧しいと言うことは想像もできなかった。
 特別な熟練をもたない労働者は、失業しなくても人生で3回、貧困に陥る危険がある。1回目は自分が子どものとき、2回目は結婚して自分の子どもを育てているとき、3回目は子どもが独立して自分がリタイアした高齢期である。
 むふふ、なるほど、これは私にもあてはまりそうな構図です。もし私が弁護士としてやれなくなったときには・・・。考えただけでも、ゾクゾクッとします。
 マクドナルド・プロレタリアートという言葉があるそうです。初めて聞きました。プロレタリアートなんて、もちろん私は大学生のころには見慣れた言葉です。でも、このころは、とんと見聞きしません。それが、あの世界的ファースト・フードのマクドナルドと結びついた単語になっているなんて・・・。
 安い賃金と不安定な雇用で働くサービス労働者のことをさすようです。こうなると、私はすぐにキャノンの御手洗社長を連想します。そうです。今や日本経団連会長の御手洗です。
 御手洗という人物は、最近の言動によると、自分さえ良ければ一般大衆なんてどうなってもいいという典型的なアメリカ型の無責任経営者としか思えません。私はまったく彼を見損なっていました。もっと気骨のある人物のように思っていたのですが、単なる買いかぶりにすぎなかったようです。まあ、彼がこんなブログを読むはずもないでしょうから、これは、ごまめの歯ぎしりに過ぎませんが・・・。
 それにしても、日本の経営者は、もっと企業の社会的責任、つまり日本人全体の幸福のことを真剣に考えてもいいんじゃないでしょうか。ハゲタカ・ファンド対策かなにか知りませんが、巨大なマネーゲームにうつつを抜かしすぎて、普通の日本人の生活を忘れすぎています。貧困というのは、地方の弁護士の一人である私にとっては、ありふれた現象です。一ヶ月に何万円かで過ごしている人のなんと多いことでしょう・・・。
 格差は、それがあってどこが悪いという開き直りが可能だ。しかし、貧困は、社会にとって容認できない、あってはならないという価値判断をふくむ言葉なのである。
 うむむ、そうですね。なるほど、そうなんですよね・・・。
 近年の貧困の増加は、固定化の方向ですすんでいる。若年女性全体における貧困経験の増加、中年期における貧困常連層と安定層への二分化の進行がある。高齢女性の貧困は、とくに固定貧困として存在している。
 路上ホームレスは別に新しい問題ではなく、戦前そして敗戦直後には、貧困の主要なタイプの一つだった。ホームレスの存在は、以前から見えていたし、発見されていた。
 新宿区役所の相談件数は、1991年までは3000人台で推移していたが、1994年度は4万人、1995年度は9万人、1997年度は10万人をこした。
 全国主要都市のホームレスは1998年には1万6000人、1999年には2万人、2001年は2万4000人。2003年には2万5000人になった。日本のホームレスのもっとも大きな特徴は、中高年男性に集中している点にある。
 路上ホームレスの5割近くが50歳代に集中し、60歳代で3割前後となっている。6割近くが義務教育までの学歴程度で、未婚率も高い。
 むしろ現代日本の路上ホームレスは、低学歴で未婚の中高年の男性に多い。日本のホームレスが中高年の男性を中心とする単一集団のように見えて、実は多様である。
 フリーターや無業者が増えるなかで、結婚したくてもできない人が増えている。
 貧困が、さまざまな出会いを奪っている。
 若年女性の「うつ傾向」が中卒レベルの学歴と強い関係をもっている。うつ傾向は結婚している女性よりも離死別を経験した女性や未婚の女性に強く見られる。
 誰だって老人になります。老人になったときに安心して老後を過ごすことができない国なんて、貧しい政治ですよね。北欧万歳というわけではありませんが、寝たきり老人がいないとか聞くと、日本の政治と社会がいかに貧しいか、考えさせられます。お金があって、健康で、若い(年寄りでない)者だけがのさばる世の中、日本であってはいけない。今年、還暦を迎える私は痛切に思います。
(2007年5月刊。700円+税)

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