弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2008年1月11日

平成の自治体再編と住民自治

社会

著者:宮下和裕、出版社:自治体研究社
 私と同世代(正確には1学年だけ年長)で、長く自治体問題を専門にしてきた著者による本です。地方自治はもっと大切にする必要があると思うのですが、年頭から日本経団連の御手洗会長は道州制を九州から始めようと提唱しています。とんでもない男です。財界の思うままに地方の生活をこれ以上、荒らしてほしくはありません。
 07年7月の参院選の分析について共感するところが大でしたので、思わず著者にエールを送ったことでした。というのも、日頃は、民主党なんて所詮は自民党と同根、同じ穴のムジナの類じゃないか、アメリカの共和党と民主党と同じで、名前が違うだけの保守政党内の政権バランスの変動に過ぎない。そんなさめた意見があります。それは共産党や社民党など、根っからの護憲政党が引き続き惨敗したことから来る敗北感にも支えられています。でも、本当にそうなのか。もっと、大局的に政局を眺めてほしい。著者は、そのように訴えています。
 民主党が大きく議席を伸ばすことによって実現した与野党逆転によって、憲法「改正」のための憲法審査会の設置は大きく遅れ、いつ発足するのか、今では見通しもありません。憲法「改正」を目ざす政府広報予算も10分の1以下にバッサリ削減されてしまいました。私は、大いなる拍手を送ります。パチパチパチ。
 8月6日の広島での被爆62年式典で、広島の秋葉忠利市長は、「世界に誇るべき平和憲法をあるがままに遵守し、アメリカの時代遅れで誤った政策には、はっきり『ノー』と言うべきです」と、明確な平和宣言をしています。すごいですね。よくぞ言ってくれました。
 小泉元首相が成功したようなマスコミによる世論操作は、なるほど、それなりに成功している。しかし、安倍前首相は、それに失敗して、その意に反して早々に退陣を余儀なくされました。福田首相は前者の失敗を繰り返さないように心がけていますが、それでもC型肝炎被害者に対する当初のお粗末な対応にみられるように、マスコミ操作をうまくこなしているとは決して言えません。
 著者は次のように強調しています。どうせ、たいしたことはできない。お手並みを拝見しよう。そんな傍観者的な立場に立つことなく、いま国民によって有利な条件をいかに活用するのか、そのようにぜひ考えたいものだ。
 私も、まったく同感です。自民党も公明党も世論操作能力に自信をなくしつつあるのです。今こそ、世の中を良い方向へ変えていく絶好のチャンスなのです。そのように考えたいと、私は痛切に思います。
 自治体再編がすすみ、小さな市町村の合併がすすんでいます。おかげで、聞いたこともないような市がたくさん誕生しました。果たして、大きいことはいいことなのでしょうか。私は決してそうだとは思いません。やはり、地方自治体は住民に身近な存在であってほしいと思います。
 地方自治のあり方に少しでも関心のある方には、ぜひ読んでほしい本です。
(2007年12月刊。2000円+税)

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