弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2007年12月10日

古代メソアメリカ文明

アメリカ

著者:青山和夫、出版社:講談社選書メチエ
 アメリカ大陸を最初に「発見」したのは、いうまでもなくコロンブス一行ではない。最初のアメリカ人は、モンゴロイドの先住民たちであった。彼らは、今から1万2000年以上前の氷河期にベーリング海峡が陸つづきになったころ、アジア大陸から南北1000キロに及ぶ広大な陸橋ベーリンジアをこえて、無人のアメリカ大陸に到達した。モンゴロイドの先住民たちは、1万年以上にわたって生活を営みつづけていた。
 チョコレートの原料のカカオは、メソアメリカの先住民が栽培化した。ジャガイモは南米で最初に栽培された。メソアメリカ原産のトウモロコシは、古代から先住民たちの主食である。古代メソアメリカでは、タバコは単なる嗜好品ではなく、重要な儀礼用植物であり、主として王族・貴族のあいだで、宗教儀礼を清め、儀礼的な病気治療にもちいられた。
 日本の秋の代名詞であるコスモス、クリスマスに人気のポインセチア、ダリア、マリーゴールドなども、みなメソアメリカ原産の花である。
 日本人と同じモンゴロイドである先住民が、コロンブス以前に「四大文明」をはじめとする旧大陸と交流することなく、メソアメリカ古代文明を独自に築き上げた。
 古代メソアメリカ文明は、石器を主要利器とした、きわめて洗練された「石器の都市文明」だった。
 メソアメリカの人々は、手だけ(十進法)ではなく、手足両方の指をつかって20進法で数字をかぞえたのが特徴。南米のインカ文明は、日本人と同じく十進法だった。ゼロの概念は、旧大陸ではインダス文明、新大陸ではマヤ文明が、それぞれ独自に編み出した。
 メソアメリカでは家畜はイヌと七面鳥くらいで、耕したり運んだりする大型家畜はいなかった。すべて人は徒歩だった。牛や馬も利用していない。
 マヤの王は、政治指導者であるとともに、国家儀礼では最高位の神官であり、戦時には軍事指揮官でもあった。専業の神官は存在せず、王や貴族が神官の役割を果たした。神聖王であったマヤの王は、先祖・神々と人間の重要な仲介者であり、神々と特別な関係をもつことによって自己の権威・権力を正当化した。
 戦争では王がしばしば捕獲・人身供犠にされ、戦争の勝敗は、都市の盛衰に大きく影響した。しかし、一つの王朝が遠い別の王朝を征服して直接統治することはなかった。
 古代メソアメリカは政治的に統一されなかった。これは、南米で、インカ帝国が15〜16世紀に中央アンデスを統合したのと対照的だ。16世紀からのスペイン人の侵略によって、古代メソアメリカ文明は破壊された。しかし、その後も影響は今に至るまで残している。
 トウモロコシは、乾燥・貯蔵が容易で、その余剰生産は、古代メソアメリカの都市文明をうみ出した原動力の一つとなった。
 トウモロコシ、マメ、カボチャはメソアメリカの三大作物である。
 鏡はあったが、それは鉱石を磨いたもので冶金ではない。鏡は支配層の威信財だった。
 マヤ民族という単一民族は過去も現在も存在しない。共通語の「マヤ語」はなく、30のマヤ諸語が、800万人以上の現代マヤ人によって話されている。
 マヤ文字は、漢字かなまじりの日本語とよく似ており、一字で一単語をあらわす表語文字、一字で一音節をあらわす音節文字からなる。マヤ文字は全部で4〜5万あり、60%くらい解読されている。
 暦は365日暦がある。古典期マヤ文明は、南北アメリカ大陸で、文字、算術、暦、天文学をもっとも発達させ、ゼロの概念を独自に編み出した究極の石器の都市文明だった。
 メキシコ中央高地のテオティワカンは、最盛期の200〜550年には、23.5平方キロの面積に12万5000人〜20万人の人口が密集する、南北アメリカ大陸で最大の都市であり、ローマに匹敵する世界的な大都市として繁栄した。
 アステカ人にとって、戦争とは敵を活かしたまま人身供犠のための捕虜として捕らえ、貢納を確保することが一大目的だった。スペイン人のような、敵を無差別に皆殺しにするという概念は存在しなかったのである。
 数百人のスペイン軍より最終決戦では20万人に及ぶ敵対先住民の同盟軍によってテノチティトランは陥落させられた。アステカ王国の敗北はここに原因があった。
 知らなかったことがたくさんありました。日本人の学者が、この分野でも活躍しているのですね。
(2007年8月刊。1600円+税)

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