弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2007年12月 5日

借金取りの王子

社会

著者:垣根涼介、出版社:新潮社
 団塊世代は、とっくに定年期を迎えています。第二の人生を意気高く迎えて過ごしている人もいるでしょうし、なんとなく鬱々とした思いでその日が過ぎているだけの人も多いことだと思います。会社内でリストラをする側にまわったらどう思うか、リストラされる側になったとき、どんな気持ちなのか、自分にひき寄せながら、身につまされつつ読みすすめていきました。
 主人公はリストラする側の会社員です。
 嫉妬。出世競争の中に生きる男がもつ、もっとも醜い感情の一つだ。同期の陰口を叩く。ないしは悪意のあるうわさ話を流す。あるいは実際の業務で足を引っ張る。そして相手が出世コースを外れていくまで、それらの行為をあくことなく続ける。ある意味、女の嫉妬より陰湿で始末が悪い。
 たいていの会社では派閥抗争があるようです。そして、頼っていた上司がコケたら、部下まで一蓮托生でコケていく。そんなリスクを背負いたくないから、上司に仲人を頼まなくなった。そんな話を聞いたことがあります。ドライな人間関係が好まれるワケです。
 出世なんて、しょせんはオセロと同じだ。ある一時の局面では優位になったとしても、ほんのちょっとした油断やミスから、またたく間に盤の目はひっくり返る。勝っていたと思っている状況からひっくり返されるから、より悲惨だ。カッコもつかない。
 自分の努力だけでなく、ときの運が必要なのは、多かれ少なかれどんな職業にもあるとは思いますが、気持ちのいいものではありませんよね。
 あるサラ金会社の話。支店の雰囲気が悪い理由はいろいろあるが、その最たるものが社内不倫だ。上司が部下に手を出す。既婚者の同僚同士で道ならぬ恋に落ちる。男もそうだが、会社で同等の仕事を任されている女も数字に追われ、絶えず激しいストレスにさらされている。気持ちが徹底的に乾いている。なにかにすがりたくなる。そこに、自分の苦しい状況を何度も救ってくれる相手がいると、それが白馬に乗った、自分のように情けなくない、王子に見える。つい抜き差しならない仲になってしまう。分からないでもない。
 社内不倫は、これまた、あらゆる職場で横行しています。私の身近なところでも、いくつか見聞しました。
 「おけえらカスだ。人間のクズだ。いいからもう全員死ねよ」
 これは、サラ金会社の支店長同士でお互いを罵倒しあう時間にあびせる言葉です。一人の店長について、10分間、他の店長から集中砲火を浴びせられます。相手の欠点を何がなんでも責め立てるのです。
 「努力が足りない」
 「意識が低い」
 「数字の読みが低い」
 「部下の指導力が弱い」
 「ったくよお。それが年収1000万円以上もらっている人間の働きか。おいっ」
 いくら高給とりとはいえ、人間じゃないように責め立てられて生き残る人って、何者なんでしょうね。
 小説としても、なかなかに読ませるものとなっていました。
 日曜日に、チューリップの球根を庭に植えました。久しく雨が降っていないので、その前後にたっぷり水をかけてやりました。いまエンゼルストランペットの黄色の花と、と白とピンクの花が満艦飾です。もう少し寒くなると霜で全滅してしまいます。師走に入って寒くなったとはいえ、まだ霜がおりるほどではありません。夜になって久しぶりに恵みの雨が降りました。
(2007年9月刊。1500円+税)

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