弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2007年11月22日

空母エンタープライズ

日本史(古代史)

著者:エドワード・P・スタッフフォード、出版社:元就出版社
 夜間戦闘機のない時代の航空母艦です。
 ミッドウェー海戦の前、アメリカ海軍のニミッツ大将は敵(日本軍)には知られていない武器、空母部隊一つ分に相当するものを持っていた。それは暗号解読班である。日本軍の暗号を知っていた。ニミッツは山本五十六大将の攻撃計画のいつ、どこへという重要な要素を知っていた。
 1941年12月から1942年6月まで、日本海軍の絶対優勢期、そして日米海軍がほぼ互角の戦力で死闘をくり広げたソロモン諸島での戦いで、ビッグEと呼ばれた空母エンタープライズは主要な海戦のほとんどに参戦して大活躍しました。もちろん、日本海軍を次々に撃破していったわけです。読んでいると、日本軍って、どうしてこんなにバタバタと撃ち落とされてしまうんだろうと歯がゆさを覚えるほどです。彼我の科学技術力と物量の差を改めて感じざるをえませんでした。
 ところが、無敵を誇っていたかのような空母エンタープライズは、日本の敗戦間近の5月14日、フィリピン海において神風特攻機によって戦闘不能となって、戦線を離脱せざるをえなくなり、修理のためパールハーバーへ向かった。
 その前の年の半年間で、空母エンタープライズ一艦によって、日本海軍は、艦艇19隻、飛行機300機を失っていた。
 戦艦武蔵に対する雷爆撃では外れたのが少なかった。18個の1000ポンド爆弾のうち11個が命中した。多くが中心線に沿って中央部の近くに当たった。魚雷は8本全部が命中した。巨大な戦艦は一瞬、至近弾と命中した魚雷が高く上げた水飛沫、炸裂した爆弾から舞い上がった白い煙、火災による黒煙により見えなくなった。それから長く黒い艦首が沸騰する大釜からゆっくりと滑り出てきた。武蔵は艦首から沈んで停止し、炎上した。これは、最高の対空兵器を装備した近代戦艦が航空機の攻撃だけで沈められた最初の例である。
 マリアナ沖海戦のとき、空母エンタープライズは2隻の敵空母に10個の爆弾を命中させ、12機の敵機を撃墜した。そのかわり、飛行機5機を失った(ただし、戦闘で失ったのは1機のみ)が、人員の損失はなかった。
 攻撃機216機のうち、100機が失われた。20機は戦闘で、80機は燃料切れと着陸時の事故により。その100機の搭乗員209人のうち死亡したのは49人のみ。
 アメリカ軍の戦死者は全部で55人。そのなかには、事故による死亡6人も含んでいる。
 この本を読むと、日本軍と違って、アメリカ軍が末端兵士に至るまで、その人命の損失を重大視していたことがよく分かります。そこに初めから勝負があったのではないでしょうか。
 ミッドウェー海戦、ガダルカナル上陸作戦そしてソロモン海戦などで、アメリカ海軍も日本軍よりは優れたレーダーをもっていても、今のように衛星から追跡できなかったわけですから、広い太平洋のなか、いつ、どこで遭遇するか分からないという賭けをしていたのだということがよく分かります。アメリカ側からみた太平洋戦史を日本人が知るのも、あの戦争の実相を認識するうえで大切だと思いました。
 ちなみに、空母エンタープライズは2万トン弱で、飛行機も90機しか運んでいませんでした。まさに中型空母です。
(2007年8月刊。上下巻。2300円+税)

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