弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2007年10月31日

自衛隊裏物語

社会

著者:後藤一信、出版社:バジリコ
 自衛隊は、総計24万人にも達する日本最大の国家公務員組織である。
 任期2年の一般陸上自衛隊員の中で、ホンモノの手榴弾を触ったことのある者はほとんどいない。演習でつかうのは、模擬手榴弾であって、いくら乱暴に扱っても決して爆発しない。爆薬が入っていないから。
 だから、日本の自衛隊は真の意味で軍隊ではない、軍隊もどき、でしかないのだと言った人がいます。同感です。幸いにも殺し、殺されることのない「軍隊」なのです。まあ、それでいいじゃありませんか。私は本心からそう思います。
 自衛隊員の武器使用の要件は警察官職務執行法第7条に定められているとおり、防衛のものに限定されている。先制攻撃は許されない。
 この本は、日本が自己完結した戦力を保有したとき、本当に日本の危機が減少するのか、という根本的問題を提起しています。私も、同じ疑問をもっています。武力をもてば自分の身を守れるというのではないことは、アメリカ社会を見れば証明十分です。そこでは殺人も強盗も日常茶飯事です。人々は平気で銃をもっているにもかかわらず、です。
 防衛大学校生に支払われる毎月の学生手当は10万6600円。このほか、年2回の賞与もある。防大を卒業するときに任官を拒否する者が毎年30人ほど必ずいる。
 自衛隊員には、抗命権、抵抗権が与えられていない。自衛隊は絶対階級社会である。しかし、虐殺などの人道に反する命令に対して、兵士が軍務を拒否できる抗命権を認めているフランスやドイツのような国がある。そのときには、抗命権の行使が正当であったか否か、軍事法廷で審議される。しかし、日本には憲法により軍事裁判所の設置が禁じられている。そして、自衛隊法によれば、敵前逃亡罪は7年以下の懲役または禁固刑でしかない。死刑になることはありえない。自衛隊を脱走する者は3〜5%。自衛隊の歩哨は実弾を一発ももっていない。その警備は丸腰のセコムに頼っている。
 自衛隊員の自殺者は、1995年度に44人、98年度75人、99年度62人、00年度73人、1年度59人、02年度78人、03年度75人、04年度94人、05年度は93人だった。
 自衛隊の自殺率39.56人は世界2位のロシアより高い。その多い原因は、いじめだ。
 イラクに派遣された自衛隊の自殺者は陸自が6人、空自が1人の計7人。派遣された 5500人のうちの7人だから、きわめて高率だ。
 自衛隊員は、日々、受動的な生活を送るため、指示がないと何もできない人間になってしまう。そして、自衛隊員の趣味は、圧倒的にギャンブル関係が多い。
 タイトルに反して自衛隊の実情を知ることのできる、マジメな本です。
 私は、憲法9条2項を廃止しようという自民党の提案には反対です。だって、アメリカの言いなりになって、ホイホイとイラクやアフガニスタンへ出かけて行って、世界と日本の平和と安全に役立つなんて、まるで嘘っぱちなことは明らかではありませんか。それにしても、自衛隊の現実を、弁護士会でもきちんと議論すべきだと思いました。
(2007年8月刊。1200円+税)

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