弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2007年7月27日

ヒトは、どのようにしてつくられたか

著者:山極寿一、出版社:岩波書店
 チンパンジーは思考能力や認知能力をもっている。動物園や野生のチンパンジーは道具を製作し、使用する。そのうえ、仲間と政治的な取引もしている。類人猿は、「心の理論」すなわち、相手の考えを前提として行動している。類人猿と人間は思考方法がよく似ていて、道徳的な観念すら共通している部分がある。
 果実食のチンパンジーを観察した結果、朝方は果実、日中は昆虫、夕刻は葉というように、時間によって食物を選択する傾向があることが判明した。朝方に果実から糖分を得て活力をつけ、日中にすばしこい虫を追いかけ、夜寝る前に消化に時間のかかる葉を食べるというように、食物の性質にあった食べ方をしている。
 うむむ、そうなんですか・・・。合理的に生きているんですね。
 ゴリラの生息密度は植林帯の違いにかかわらず、一定である。それは、果実が不足するとゴリラは葉や草や樹皮など繊維質の食物を多く食べるから。果実を食べるときより葉を食べるときのほうが遊動距離は短い。また、ゴリラのメスは、単独で遊動せず、群れ同士が出会ったときだけしか移動しない。つまり、群れ同士がテリトリーをもたずに混在するゴリラのコミュニティは、メスの移籍を左右する群れ同士の出会いを適当に保つように維持されている。ゴリラは、鉱物の果実だけでなく、他の食物を多くメニューに加えることによって、群れ内、群れ間の社会関係を壊すことなく、社会的に安定した生活を送るように進化してきた。
 現代のヒトの女性は、類人猿に比べて出産間隔が短い。ゴリラは4年、チンパンジーが5〜6年に対して、ヒトは2〜4年。ヒトのほうが多産の傾向がある。
 現代人の生活史を類人猿と比べてみると、大きな違いが三つある。子ども期がある、青年期がある、閉経後、何年も生きること。
 ヒト以外にも閉経のある哺乳類はいる。シャチやコビレゴンドウである。メスのコビレゴンドウは40歳前後で繁殖を停止し、その後、60歳ころまで生きる。これらのクジラは母系の社会構造にあり、血縁関係のある複数の世代がともに暮らし、オスだけが分散する。
 ボノボに対して餌を与えると、真っ先にオスがとんで出てくる。オスが強いからではない。むしろ、その逆である。オスがすっとんでくるのは、早く行って餌をとらないと、メスご一行様が来たら、もう取れないから。メスたちが餌を取るあいだ、オスたちは一位のオスもふくめて、周囲で待っている。
 そして、オスがメスのご機嫌うかがいをするため、わざと餌の一部を落としたりもする。
 ボノボのメスは、気に入らなければ相手が強いオスであろうが、ともかく断ってしまう。そして、気にいったオスと交尾する。
 チンパンジーのメスは、1ヶ月の排卵期の前後に2週間の発情期がある。このとき、メスは積極的にオスにアタックする。100回以上の交尾をしている。チンパンジーのメスは、たった一回の妊娠の成功のために、数百回から1000回以上もの交尾をしている。ところが、何回と交尾しても、平均して半年かけないと妊娠しない。
 人間とは何かが、この本のテーマです。それを考えるうえで、格好のテキストになります。

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