弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2007年6月 1日

格差社会とたたかう

社会

著者:後藤道夫、出版社:青木書店
 現在日本の勤労者世帯中の貧困率は2割前後。小泉首相は、格差の増大の原因を高齢者世帯の絶対数の増加のせいにするが、貧困世帯の増加268万世帯のうち、勤労世帯における増加分が142万世帯なので、小泉首相の主張は間違っている。
 国民の4割が加入している国民健康保険の保険料の滞納世帯は、2000年6月に  370万世帯だったのに、4年後の2004年6月には461万世帯と2割近く増えた。
 就学援助を受ける小中学生も急増し、日本全国で1997年度に78万人だったのが、2004年度には134万人となった。
 収入が増えている人々もいる。1997年に年収1000万円以上の人が5万6000人(5.8%)いたのが、2002年には6万8000人(6.5%)に増えた。IT産業関連など高処遇の職種群が形成されている。
 年収2000万円以上の人が2001年に18.1万人だったのが、2004年には 19.6万人に増えた。2005年9月の総選挙において自民党は首都圏で圧勝した。それは、これら上層の人々と、その周辺の人々、そして自分も上層への仲間入りが可能だと思っている人が支えている。
 なーるほど、東京で石原慎太郎が仕事もろくにしないのに300万票もの支持を集めるのは、それだけの現実的基盤が、それなりに存在するということなんですね。
 このような上層国民を社会統合の中心とするためには、上層への利益供与システムをつくり、彼らに社会秩序維持の担い手たる自覚をもたせることが必要となる。そのため、所得税の累進度を大きく緩和した。1980年代初めは75%が最高税率だった。1990年代初めに50%に大幅ダウンした。1998年の税制改革により37%になった。
 公私二階建て方式がとられるようになった。すべての国民に開かれる「公」は薄く、脆弱なものとし、「公」を支えるための高所得層の費用負担は小さくする。その分を、「私」の部分を購入する費用としてつかうことを可能にする。
一部の上層は、たしかに「報われる」。反対に、ワーキング・プアだけで600万世帯をはるかに超えるが、これらの多くの人々が「報われる」ことなく、それどころか、以前なら考えられないような生活不安、労働不安、そして将来の不安に直面している。
 「努力すれば報われる社会を」というスローガンは、自助努力に欠けるとみなす人々を、排除し、切り捨て、財政負担を軽くしたうえで、そんな人を治安管理の対象として、いわば隔離するとともに、一種の見せしめとして、「中層」以下を叱咤鼓舞する。
 ここまで落ちるんだぞ。それがいやなら、何であれ、死に物狂いで努力せよ。
 というものです。いやあ、本当にあたたかみのない、殺伐とした日本になってしまいましたね。弱者切り捨てがどんどん進むなかで、上昇志向の若者が自分の足元を見ることなく、手を叩いて、格差拡大を喜んでいます。ここに切りこみ、対話して現実をしっかり見つめることを多くの人に求めたいものです。

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー