弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2007年4月11日

日本一ベンツを売る男

社会

著者:前島太一、出版社:グラフ社
 この本を読むと、日本は本当に格差社会になってしまったことが実感できます。
 今、六本木や麻布の交差点で信号待ちしていると、まわりの車がメルセデスだらけということがある。メルセデスは、もう大衆車だ。かつては、メルセデスに乗っているというのはステータス・シンボルだった。家にプールがあったり、クルーザーをもっていると同じ感覚。
 メルセデスというのはベンツのことです。ヨーロッパでは日本と違って、ベンツと呼ばずにメルセデスと言います。
 この本で紹介されているベンツのセールスマン吉田満は、10数年にわたって年間に100台以上のベンツを売り続けてきた。しかも、ベンツのなかでも1000万円以上の高級車ばかり。1ヶ月に22台(1996年)、年間に160台(2000年)という記録を出している。セールスを始めて20年間に、ベンツの累計販売台数は2000台をこえる。すごーい。信じられない台数です。
 吉田満のお客の7〜8割はリピーター。吉田満のお客は、メルセデスを妻や恋人へのプレゼントにすることが多い。
 吉田満のケータイの1日の着信数は120件。ケータイ通話料は月4〜5万円。多いときは月17万円だった。吉田満の頭のなかに、お客の電話番号が150件も入っている。ケータイの電話帳を見ることなく、電話がかけられる。これも記憶力を訓練した。
 お客と、ベンツの値段を話はあまりしない。2000万円のベンツを買う客は、吉田満のすすめるまま車を買い、お金を払う。ここには2000万円が2万円ほどの感覚で動いている世界があるわけです。
 発注から納車まで、最短4日。普通なら、商談に1週間、納車まで1ヶ月というのが常識なのに、この早さ。吉田満はお客のオーダーをきく前に自分の責任で事前にオーダーしておく。商談の勝負は一度だけ。会った瞬間、相手の目を見ただけで買うかどうか、ある程度わかる。1〜2分でも会話をすれば、買うかどうかの判断はつく。
 一流のサービスとは、痒いところに手が届くサービスではなく、痒くなりそうなところをかいてやること。お客がほしいと求める前に、その要望に完璧にこたえた車を仕入れておいて、届ける。
 洋服は自分のスタイルを活かすための必須アイテム。TPOを考えたうえで、少しでも客の予想をこえたものを提供する。これがサプライズ・サービスだ。
 メルセデスを買うというのは、満足を買っているわけなので、売る人間(セールスマン)も大切なファクターになっている。だからスーツはいわば戦闘服。こいつから買ったら安心かも、と分かってもらいやすいから、良い服を着ている。客に対して、どれだけ印象深い人間になれるか、それだけを常に考える。客から一目置かれる存在になる。そのためには自分を背伸びさせても自己投資する。
 メルセデスというクルマは、頭を下げてまでして売るような商品ではない。うーん、そうなんですか・・・。ちっとも知りませんでした。
 日本もアメリカと同じ恐ろしい世界になってしまいましたね・・・。

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー