弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2007年2月21日

プーチンのロシア

世界(ロシア)

著者:ロデリック・ライン、出版社:日本経済新聞出版社
 エリツィンは共産主義打倒に全身全霊で打ち込んだ。そしてある程度の成功を収めた。その後も共産党はロシアの政界で相当の組織力を維持している。しかし、1996年の大統領選挙でエリツィンがジュガーノフに勝ってからは、ロシアが共産主義イデオロギーや計画経済に復帰する可能性はなくなったようだ。
 共産党の幹部や議員は、政権を黙認することで特典にありつける現状に満足しているようだ。
 エリツィンが共産主義に対する勝利を得た代償として、民主主義と経済は犠牲にされた。1996年にエリツィンが再選されたのは、ごく少数の財界人たち、のちに新興財閥(オリガルヒと呼ばれる)による資金援助とテレビ支配のおかげだった。
 プーチンはチェチェンに対するロシアの反撃を指揮した。それは長い屈辱の日々の終わりかと思え、その効果によって、国民のあいだにプーチンについて、強固な意志と実行力を兼ね備えた人物だというイメージが生まれた。
 プーチンの個人的人気こそ、プーチンの二大資産の一つだ。もうひとつは、大統領という地位そのものにある。
 ロシアでは、下院の議席は多くの議会人にとって実入りのいい収入源と化していた。下院の独立性は次第に失われていった。
 ロシアは理想にはほど遠い状態にある。今なお組織犯罪や契約殺人が頻発している。それでも、他の過渡期にある国や新興国に比べると、公正で迅速な裁判が受けられると考えられるようになった。
 ユコス事件で経営者が逮捕されたことから、プーチンに対して本気で挑戦する者は容赦されないことが明らかになった。見せしめとして狙い撃ちされたのだ。
 プーチンの「統一ロシア」は3000万人の党員確保を目ざしている。旧ソ連の共産党員は2200万人だった。
 男女あわせると100万人をこす軍人がいるし、退役軍人も数百万人いる。
 かつて軍は権力装置のひとつであり、国の誇りであり、社会の中心的な支柱だった。しかし、現在の軍には、その面影はない。徴兵者の大部分は入隊を拒み、実際に入隊した若者はひどい虐待を受け、軍とは関係のない建設現場で働かされたりする。
 ロシア国内には400をこえる大規模犯罪グループが存在し、およそ1万人が関わっており、国家的脅威となっている。
 実際の法執行はきわめて弱く、末端レベルでは贈収賄が横行している。
 ロシアの人口は1億4300万人。1993年から500万人も減った。今も、毎年 70万人ずつ減り続けている。2010年からは年に100万人ずつ減っていくと予測されている。えーっ、それはすさまじいことです。
 男性の平均寿命は59歳となった。1980年代初めは65歳だったのに・・・。自殺は5万9000人。殺人による死は4万7000人。アル中による中毒死は6万7000人。
 ロシアの軍需生産の5割以上が輸出向けで、年平均10億ドルもの兵器を購入する中国が最大の輸出国。
 ロシアでは政治的自由がしだいに制限されていっている。KGBの後継機関(FSB)が息を吹き返し、法と説明責任をこえて活動している。
 私は、もともと旧ソ連に社会主義なるものがあったとは思いません。そこには社会主義に名を借りた封建主義があったと思います。そして、今は、資本主義の名のもとにとんでもない自由放任主義、すなわちお金と力(暴力)をもつものが社会にのさばっている現実があるとしか言いようがありません。
 ロシアの現実を知ると、「社会主義はダメだ。資本主義、万歳」だなどと叫ぶ人の気がしれません。

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